My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「あ、うん……星空のランプをね、貰ったの」
「ランプ?」
「正しくは、ランプの代わりというか…それも霞むくらいの、思い出」
「へえ…?」
いまいち雪が語る意味はわかり兼ねたが、茶化すことも馬鹿にすることもできなかった。
「苦手だと思ってた世界は、ちっぽけだったんだなぁって。…私、ちゃんと踏み出せてたんだなって、教えて貰えたから」
そう告げる雪が、今まで見たことのない表情をしていたからだ。
口元に弧を描き、何かを思い出すようにして己の膝を見つめている。
その瞳にはティキの知らない誰かが映っているかのように、柔く綻び緩んでいる。
愛情に、満ち満ちて。
「一人じゃきっと、ちっぽけな自分のままだった。今いる世界はもう昔とは違うんだって、ユウが教えてくれたから」
さらりとその唇から零れ落ちる名前に、ぴたりとティキの口が閉じる。
そんな些細な変化など、語る雪が気付くはずもない。
「それにね、教えて貰ったその場所がなんと魔法界だったのっ。特別な場所って訳じゃないけど、仲良くなれた友達の家の誕生日会に招待してもらって…こういうのが"家族"って言うのかなぁって。凄くあたたかいおうちだった」
「……」
「大変なこともあったんだけどね。ニフラーの住処探しの途中でケルピーに襲われたり…あ、ニフラーもケルピーも魔法動物のことなんだけど」
「……」
「というかこれ、一応誰にも内緒にしておいてくれるかな。ワイズリーには話したけど、魔法界のことを普通の人間が知ったらいけないから…」
「……」
「ティキ?」
雪に対しては、怒りや憤りなどは感じていない。
しかしその口から幸せそうに告げられる男の名を平気な顔して聞ける程、感情に整理がついた訳でもない。
雪は目の前にいるが、その本体は此処にはない。
神田ユウという男のすぐ触れられる所に在り続けているのだ。
意識していなければ、眉間に力が入ってしまいそうになる。
「ティキ、どうしたの?……やっぱり、あんまり調子よくない…?」
心配そうに顔色を伺ってくる雪に、非はない。
ないのだが。
(…無自覚ってのは、時として罪だよな…)