My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「大丈夫。雪に怒ったりなんてしてないから」
「本当?」
「ああ。だから俺の顔色なんか窺わなくていいし、謝るのも無し。いい?」
「うんっ」
笑顔を向けて告げれば、ようやく安堵したのか。つられて笑顔を零した雪が、ティキに駆け寄る。
煙草を持っていない手を、躊躇なく両手で握り締めた。
「あのね、ティキ。話したいことが色々あるの」
「何? なんか良いことでもあった?」
落ち着いた照明の、薄暗い部屋。
其処が何処なのか気にするよりも、雪の意識は全てティキへと向いている。
そこに悪い気などはしない。
つられて口角を緩めながら、背後に隠した煙草の火を指先で握り消す。
そのまま掌で包み込んでしまえば、もうそこには何もない。
暗い窓の外では、こぽこぽと気泡が漂っている。
時折水草のようなものが通り過ぎるのを横目で確認すると、ティキは分厚いカーテンを閉め切った。
そうすれば〝外〟は雪の目に映らない。
「前に話したことあったでしょ? 暗い部屋から見る星空の話」
「ああ、あれね。苦手だって言ってたやつ」
「ふふん」
「…何そのドヤ顔」
「それ、克服しました!」
手を引かれるままに、目の前のソファに並んで座る。
途端に満面の笑みでピースサインを向けてくる雪に、ティキはぽかんと目を丸くした。
「何その苦手な食い物克服した子供みたいな顔」
「ドヤ顔とか子供って。もう少しマシな表現ないかな」
「まんまそんな顔してるだろ。ってか星空ってどうやって克服すんの。毎晩見上げて耐えるとか?」
「そんなことしないよ。私Мじゃないし」
「そうだっけ」
「やめてそういう切り返し。本当にМだと思われるでしょ? ワイズリーとかに」
「あいつ割とSっ気あるからな…」
「え、そうなの? 全然見えない」
「隠れSだな。害の無さそうな顔して、他人の腹の内探りまくってる悪趣味な奴」
「え…そうなの…?」
「そうそう。怖い怖い」
「あ、凄くテキトー」
「というかあいつの話なんていいから。それで、星空がなんだって?」
折角の二人の時間を、覗き魔の同胞話で潰したくはない。
ひらひらと片手を振りながら、ティキは話の道筋を戻した。