My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
(ワタシでなくとも、覗きたくなるというものよ)
ノアはどちらかと言えば己のメモリーに準じた性格をしている。
その顕著な例が、ジャスデロやシェリルだろう。
ティキにも"快楽(ジョイド)"としての片鱗を感じることはあるが、それ以上に彼は複雑な内面を持っていた。
果たしてそれは、ティキ・ミック本人が持ち得たものなのか。
ジョイドが影響させたものなのか。
(今そんなことを問うたところで、どうにもなるまいが)
「…何にやけてんだよ気色悪ィ…もう覗いてんの」
ふ、と自虐的にも浮かんだ口元の僅かな緩みは、しっかりティキの視界に届いていたようだ。
「ち、違うわい。これは家族としての御主を思ってのう」
「それも気持ち悪ィわ」
「! のの…」
あっさりすっぱり言ってのけるティキに、多少なりともショックを受けつつ。眉尻を下げて、ワイズリーは笑った。
「本当に、御主はワタシに冷たいのう…はてさて(そんな御主の心を引き寄せた雪は、果たして)」
ティキを前にして、どんな表情(かお)を見せてくれたのだろうか。
思い馳せるように、ワイズリーもまた見えない景色を覗くように霧の空を仰いだ。
──コポリ、
耳を撫でたのは水の中を揺らぐ気泡の音。
こぽり、こぽりと幾つも浮かんでは消えていく。
ケルピーに攫われ、水中へと引き摺り込まれた。
必死にニフラーを見失わないようにと抱いていたはずなのに、その感覚もわからなくなって。
最後に見えたのは、渦を巻く気泡の壁。
深く、澱み、沈んでいく。
こぽり、こぽりと微かな泡のさざ波だけを残して。
「──雪」
優しいような、気怠いような。
懐かしさを覚える声に呼ばれた。
重たい瞼を薄らと開ける。
ぼんやりと見えた人影は、すぐ傍にあった。