My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「なに阿保面して突っ立ってんだ」
「アホ面て…ちゃんとこう、起きて待ってるよっていう意志表示で…」
「もしくは間抜け面」
「マヌケ面て。ぁいたっ」
手振り身振りで状況を説明しようとすれば、歩み寄る神田の指先が雪の額をぴんと軽く弾く。
「眠たけりゃ寝てたらいいだろ。変な意思表示も必要ない。今までだって散々この部屋で眠りこけてただろーが」
「…でも、待ってるって言ったし…」
「初めてヤッた時も終わった途端に寝落ちた癖に」
「そ…ッんなこと今言わなくてもよくない…!? というかよく憶えてたね忘れて下さい!!」
初めて神田と体を重ねた時のことを強制的に思い起こして、顔が真っ赤に染まる。
くるくると変わる雪の表情に対してか、はたまた別のものか。ぷすりと、神田の口元が柔く緩んだ。
「忘れるかよ。お前のことだろ」
額を弾いた指は、決して痛くはなかった。
やんわりと否定してくる声もまた、冷たさとは程遠い。
羞恥で染まっていた頬が、別の感情で熱くなる。
あんなにも遠いと感じていた神田の心が、すぐ傍にあるのを実感して。
触れたくなった。
「ああ。一応お前の報告のことだが、ティエドール元帥の助力もあってコムイには──」
唇を結んで、胸の前で握っていた手を伸ばす。
踏み出す必要もなかった。
簡単に届いた指先が、神田の小指の先を握る。
報告の内容を告げようとしていた神田の声が、そこで止まった。
「…大丈夫、なら。私も、大丈夫」
皆まで聞かずとも、必要ないと。
それよりも見ていたい、触れていたいものがあるのだと、小さな声で主張する。
返事はなかった。
緩く小指を握っていた手を、逆に握り返される。
指を絡め、引かれ、伸びたもう片方の手が雪の頬をするりと撫でる。
返事は一つもなくとも、触れる体温が物語っていた。
頬を撫でる手が唇へと辿り、ふにりと親指が下唇を柔く押す。
(──あ)
口付ける前の、神田が見せるサインの一つ。
雪が顎を上げて目線を上げた時、既に目の前の景色はぼやけていた。
至近距離で重なる、唇に。