My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
今までだって何度も神田の部屋に足を運んでいた。
気付けば少しずつ自分の小物が増えていて、半同棲みたいだなぁと内心照れたこともある。
なのに何故か、初めてその部屋を訪れた時のような微かな緊張が走る。
すれ違っていた互いの心を、ようやく掴めたからなのか。
自然と視線を足元に落としてしまう雪の頭に、ぽんと優しい温もりが触れた。
「すぐに戻る」
たった一言。端的に告げた神田に、ぱっと雪の顔が上がる。
無言で差し出された己の荷物を受け取ると、こくこくと頷いた。
「うん。うん、待ってる」
何度も頷く雪の姿に、ふ、と神田の口元が僅かに緩む。
見落としてしまいそうな程に微かな、それでも確かな感情の片鱗だった。
「──ふぅ」
一人、神田の自室に訪れた雪は、一息つくように、ぽふんとベッドに腰かけた。
初めて座った時は、なんとも硬くて薄いベッドだと思ったものだ。
これでは体も休めないと、雪が厚めのマットレスに代えさせ今に至る。
ふかりと包み込むような寝具の柔らかさに、ふわふわと心まで浮き上がっていくようだ。
「えっと、荷解き…は、此処でしても意味ないよね…」
手持ち無沙汰に、床に下ろしていた鞄のジッパーを開ける。
しかし此処は自室ではないと、すぐにその手を止めた。
なんとなしに鏡の前で髪を整えてみたり、うろうろと室内を見て回ったり。
落ち着かない体が結局戻ったのは、ベッドの上。
枕を抱いてぼふりとシーツの上に横になれば、嗅いだことのある匂いが鼻を掠める。
(…ユウの匂いだ)
昨夜も一緒のベッドで眠りについたが、他人の生活に馴染んだ寝具だったからか。こんなにも恋しい人の匂いを感じはしなかったように思う。
自然と目を閉じて、深く呼吸を繋げる。
それだけで、すぐ傍に神田を感じられるような気がした。
安心するような、鼓動が弾むような。
なんともこそばゆい感覚に、うとりと瞼が重くなる──
ガチャッ
「ッ起きてます!」
「…あ?」
瞬間、ドアの開閉音に弾けるように飛び起きた。
開けたドアの前に立っていたのは、案の定怪訝な顔をした神田だ。