My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「忘れ物はないかい? ユキ」
「うん。何から何までお世話になりました」
「そんなことはないさ。こっちだって面白い時間を過ごせたしね」
「楽しい、じゃなくて面白いかよ…」
「あの湖でのことを"楽しい"とラビが言えるなら、それでもいいんじゃないか?」
「あー…ま、確かに…」
「なぁに? ニフラーを野生に戻すのに、何かあったの?」
「「何もないよ母さん」」
ニフラーを見送り、ウィーズリー家に戻った後はシャワーで身形を綺麗に整えた。
魔法の力で瞬く間に乾かして貰った衣服に身を包み、赤毛の家族を前にする。
苦笑するラビにモリーが首を傾げれば、息ぴったりにフレッドとジョージがにっこりと笑顔で白を切った。
帰りはフルーパウダーにより、ダイアゴン横丁までひとっ飛びだ。
故に玄関先ではなく、居間の暖炉前で雪達は帰りの準備を整えた。
「またね、雪。今度はもっとお話しできるといいけど」
「うん、ぜひまた。ロンも、ね」
「なんか知らない間に、ハーマイオニーと仲良くしてくれてたみたいで。礼を言うよ」
「何よ、その保護者みたいな言い方」
「君がよくしてる話し方を真似ただけだろ?」
相変わらず口を開くと反発が多いロンとハーマイオニー。
だが蚊帳の外だったはずのロンがそこまで言い切れるのは、ハーマイオニーをしっかり見ていた証だと雪は顔を綻ばせた。
自分と神田ではそうもいかないが、他所の恋仲関係ならば微笑ましくも見えてしまう。
「カンダ…もう、行っちゃうの?」
「用は済んだ。仕事がある」
「そう…」
一際小さな赤毛が、しょんぼりと神田の前で沈む。
そんな少女を流石に邪険にすることもできず、神田は肩に担いでいた雪の荷物を床に置くと腰を屈めた。
片膝を床に付いて、目線の高さをジニーに近付ける。
「なんにでも好奇心を持つのは悪いことじゃない。だが危険も伴う。覚えておけよ」
「うん…」
ころころと表情を変えて神田の後をついて歩くジニーは、昔に唯一心を開けた、友の姿をほんの少しだけ思い出させた。
だからなのか。無垢に慕う少女の瞳に、自然と声の棘は抜ける。