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My important place【D.Gray-man】

第49章 つむぎ星に願いを



「……ばいばい」


 軽く片手を挙げて、小さく告げる。
 その声も姿も、もう届いてはいないだろう。

 過ごした時間はほぼ一日限り。
 それでもその間ずっと傍らにいてくれた温もりが、まだ肌に残っているようだ。

 だからなのか。
 微かな寂しさを覚えてしまったのは。

 それとも自由な世界へと飛び出せる、自分とは違うその姿に羨ましさを感じてしまったのか。


(…駄目だな。これくらいで)


 そもそも相手は魔法動物。
 人ですらないものと比べてなんになる。

 ぽふ、と。
 俯く雪の頭に、それは唐突に触れた。


「…ユウ?」


 わしゃりと無造作に頭を撫でてくるのは、無骨な手だ。
 憶えのある感触に、顔を確かめなくても相手はわかる。
 ゆっくりと顔を上げる雪の目に、消えたニフラーへと視線を向けたまま、隣に屈む神田の横顔が映り込んだ。


「別れは言えたか」

「…うん」

「そうか」


 口数は少ない。
 それでも互いに濡れた体でありながら、戻るぞと急かさないだけ神田の心は伝わった。

 自分は濡れた服を脱いで、ラビのジャケットを借りているからまだ我慢はできる。
 水分を含んだ衣服をそのまま着用し続けている神田の方が、気持ち悪いだろうに。

 いつもならすぐに不満を露わにする口を閉じたまま。隣にいて、待ってくれている。
 優しさや気遣いのある言葉はなくとも、その姿勢だけで自然と顔は綻んだ。


「ユウ」


 冷え切った指先が、同じに冷えたコートの裾を握る。


「戻ろっか」


 その身体を、温めに。

 緩く笑いかける雪に、前を見据え続けていた神田の視線がようやく向く。
 表情筋は動かずとも、もう一度だけ雪の頭を撫で付けた。


「ああ」

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