My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
駄目元で主張してみたが、やはり駄目だった。
苦笑するラビと青筋を立てた神田は対照的だが、どちらも意見を変える気配はない。
わかっていた。
魔法界のものは魔法界でしか存在してはいけない。
イノセンスが一般市民の手には渡れないことと同じことだ。
諦めの吐息をつくと、雪は深く俯いた。
「──ん! 別れは哀しいけど、でももっとずっと自由で楽しい世界が広がっているから。此処でさよなら、だよ」
切り替えるように、上げた顔に哀しみはない。
励ますような笑顔を向けると、足にしがみ付くニフラーの脇を支えて優しく抱き上げた。
「最初は苦労もあって大変かもしれない。でも、狭い檻の中で暮らすより、ずっとずっと意味のある生き方だと思う」
目線の高さに抱き上げて、つぶらな瞳を見つめる。
「自分の意思一つで、どこまででも行けるんだから」
そうだ。
目の前に広がる世界の全てを、自由に選択できるのだ。
己の責任も伴う世界だが、全て与えられるだけの作りものの世界に比べれば、ずっとずっと良いはずだ。
自分という存在を、自分のままに生かすことができる。
それは何にも代えがたい素晴らしいものなのだ。
「行こう、ニフラー。きっと素敵な出会いがあるはずだよ。君はこんなに感情豊かで、綺麗な子なんだから」
ビロードのような毛並みを指の腹で優しく撫でる。
指差を滑る心地良い感触にいつまでも浸っていたかったが、そうもいかない。
再びゆっくりと草の上に下ろせば、ニフラーはもう足元に縋り付くようなことはしなかった。
「いってらっしゃい」
「…キュ…」
ほら、と片手で先を促す。
鼻先を上げてちょこんと雪のその指先に触れると、ニフラーはおずおずと背を向けた。
じっと目の前の緑豊かな大地を見つめて、それからもう一度雪へと振り返る。
じぃっと雪の瞳に映る自身の姿を見つめるように。微動だにしなかった体は、瞬きの瞬間。
弾けるように駆け出した。
「ぁ」
と、声を漏らした時には。
小さな黒い体は、背の高い草木の中に消えていた。