My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
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「本当に、此処でいいの?」
「ああ。背の高い草木が多いから隠れ場になるし。小さな水場もあるから、あの湖には近付かないだろうしね」
「セストラルがいなくなったんだ、餌になる心配もない」
恐る恐ると振り返る雪に、返す双子の顔は明るい。
見上げるフレッドの目線の先には、高い空が広がっているだけだ。
其処へ吸い込まれるようにセストラルが消えていったのは、つい数十分前。
我が子が飛行を覚えた為か。此処には用がないとばかりに、セストラルは連れ立って飛んでいった。
「出産の為だけに立ち寄ってたんだろーな。外敵はいないけど、餌も少ない。子供が成長すれば此処は用無しさ」
魔法動物に詳しい訳ではないが、ラビの意見は的を得ていた。
どの動物にも見られる基本的な行動だ。
出産は危険を伴う為、身の安全を守る為に外敵のいないこの土地を選んだのだろう。
次の出産までは、姿を現すこともないはずだ。
「それじゃあ…ニフラー」
「…キュゥ?」
「此処でお別れだね」
ラビに借りた(というよりも着せられた)ジャケットのぶかぶかの袖を、雪が地面へと下ろす。
ぽてり、と柔らかな草の上に下り立ったのは、首を傾げたニフラーだ。
「仲間は見つけられなかったけど、此処なら木の実も沢山あるみたいだし、生きていけると思う。ケルピーはアーサーさんにどうにかしてもらうけど、暫くは湖に近付いちゃ駄目だよ」
果たして言葉が通じるかは未だ謎だが、感情が伝わっていることはもう知っている。
優しく促すように話しかければ、ニフラーはぽてぽてと小さな足で雪の足元へと歩み寄った。
「キュ~…」
「う。」
屈んだ雪の足に、立ち上げた上半身をぺたりとくっつけて切ない声で鳴く。
全身で離れたくないと主張する仕草に、ぐらりと雪の理性が揺れた。
(か…可愛い…)
「何グラついてんだ、見え見えの策略だろうが」
「うちじゃ飼えませんよー。目ぇ醒ませー」
そんな雪の心を読み取るように、後ろで待機していた神田とラビが現実を突き付ける。
「だって…可愛い」
「そういうのはあざと可愛いって言うんさ、雪」
「どこが可愛いんだンなもん。虫唾が走る」