My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「ヒヒン!」
甲高く鳴きながら、懸命に羽搏く。
ばたつく後方の足が今にも水面に触れそうな程、危なっかしい飛行だった。
それでもどうにかふらふらと上下しながら辿り着いたのは、神田達の立つ孤島。
会いに焦がれた親の下だ。
「ブルルッ!」
顔を擦り付けて再会を喜ぶセストラル親子に、神田は危険性はないとフレッドとジョージに首を振ってみせた。
二頭の親子を縛り付ける理由も、今はない。
「すっげぇな。あの距離を飛んできたんさ? 家族の成せる力ってやつかねぇ」
離れた岸を見て、ラビが感心気味に口笛を鳴らす。
つい先程まで1mも飛べなかった仔の姿を見ていたから尚更だ。
セストラル自身の成長が速いのか、親子の見せた絆か。
「…家族…」
何気ないラビの言葉に、ニフラーの体に怪我がないか観察していた雪の目が止まる。
特別気になる台詞だった訳ではない。
なのに何故か、無視できなかった。
「というかその馬、何…もしかしてさっきの海藻馬の仲間…?」
そもそもセストラルなど雪は知らない。
見た目にもおどろおどろしい二頭に引け腰になれば、ジョージが口を挟んだ。
「セストラルとケルピーは同じ馬型でも全くの別物さ。それなりに危険なのは変わらないかもしれないけど──」
「セストラル? ってあのセストラル!?」
「…ワオ。流石ポッタリアンユキ」
「我らの期待を裏切らないな」
ケルピーは知らなかったようだが、セストラルは多少認知していたらしい。
食らい付くように復唱する雪の目の輝きに、双子に乾いた笑みが浮かぶ。
余計な説明が要らない分、楽と言えば楽だ。
「ひとまずケルピーは拘束呪文でどうにかなったし。セストラルもカンダが言うなら大丈夫だろう」
「父さんに報告して、何か処置はしてもらわないといけないけど。ひとまずは、だな」
双子が放った拘束呪文は、ケルピーにこそ威力を発揮する魔法だった。
二人で縛り上げたものなら、強固な拘束となっているだろう。
ひとまず危機は脱したと、本来の笑顔が二人にも戻る。
これでようやく、本来の目的が果たせるはずだ。