My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
もこり、もこり、もこもこと。
あっちへ行っては止まり、こっちへ行ってはつまづき。
小さな山は右へ左へと彷徨いながら、ようやく出口を見つけ出した。
「キュゥ!」
「ニフラー…!」
ぴょこりと山から顔を出したのは、あのニフラーだ。
けぷりと息を吐くも、水は吐き出さない。
気絶でもして水は飲んでいなかったのか。衰弱した様子もない小さな命に、雪は顔を綻ばせた。
「よかった…!」
「や。よかったけど、さ。…ウン」
「待てそいつどっから出てきやがった」
しかし素直に喜べない者が此処に二人。
乾いた笑みを浮かべているラビと、据わった目で睨む神田である。
ニフラーがあちこち彷徨い小山を作っていたのは、他ならぬ雪の衣服の中だった。
雪から逸れない為の行為だったとしても、好意を寄せた女性の肌を、我が物顔で歩いた小動物に良い顔ができるかと言えば頷き兼ねる。
触れようものなら雪以外には威嚇しかしてこない、小生意気な生き物だから尚更だ。
「服で窒息しなくてよかったよ…苦しい思いさせてごめんね」
しかし当の本人は微塵も気にしていない。
小さな友を抱いて心底安堵する雪を見れば、渋い顔にはなるがそれ以上何も言えず。
「そんな小さな魔法動物一匹に振り回されるなんて、カンダもまだまだだなぁ」
「あ"?」
「それよりこっちの大型動物に気を遣ってくれよ。僕達は見えないんだから」
やれやれと肩を落とす赤毛の双子にギロリと向けた神田の目が、蝙蝠のように広がる翼を捉えた。
黒々としたそれは、セストラルの翼だ。
「あれは──…」
「えっ何? こっちにいるのかいっ?」
「ジニー!」
「きゃあっ!?」
神田の目線の先には、ジニーの姿もある。
また襲われるのかと咄嗟にフレッドが、小さな体を抱きかかえた。
「いや。大丈夫だ」
ばさばさと羽搏く翼が、ジニーのふわふわの赤毛を揺らす。
しかしそこへ噛み付く恐れはないと、神田は静かに宙を見上げていた。
「そいつは親じゃない」
「え?」
「親…じゃない?」
「って、もしかして…」
力強く空気を裂くような羽搏きではない。
懸命に慌ただしく翼を上下させていたのは、あの仔セストラルだ。