My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「息はできるか。体に痛みは」
「ん…ケホッ」
「返事はいいから、大丈夫なら頷け。顔は横にしてろ。体は起こさなくていい」
まだ水が残っていたのか。咳を続ける雪の体を息がし易いようにと横に寝かせ、隈なく観察する。
背中を擦り続けながら、大きな怪我は負っていないようだと結論付けていると、水気で滲んだ瞳がこちらを見上げた。
「だい…じょ、ぶ…」
「本当か」
「…うん」
辿々しさは残っているが、はっきりと頷く雪に弱々しさはない。
そこでようやく、神田は全身の力を抜いた。
肩を下ろして、息をつく。
眉尻を下げて、その場に腰を下ろした。
「…ならいい」
もう一度、雪の頬の水気を指の腹で拭う。
些細な仕草だったが、労わるようなその指先だけの行為で充分だった。
見上げていた雪の瞳が、微かに揺らぐ。
睫毛を伝い落ちる雫が、音もなく神田の指先を濡らした。
「──ちょいちょい。二人の空気のとこ悪ィけど、俺も心配してたんデスケド」
そこへ、声と共にずずいと突っ込んできたのは、派手な赤毛頭。
「僕らも忘れてくれるなよ」
「あ、あたしもッ」
「全く、冷や冷やしたよ」
が、合計四つ。
「煩ェ赤毛共だな…」
わらわらと視界を邪魔してくるラビ達に神田は苛立ちを覚えたが、雪の表情は対象的に明るいものだった。
「あっニフラー!」
途端に、そこではっとする。
自分と一緒にケルピーに攫われたニフラーは、どうなったのか。
雪の記憶では、少なくとも水中に適した魔法動物だとは聞いていない。
「ニフラー! どこッ?」
「っと」
「急に喚くな。また酸欠になるぞ」
「だって…っ」
がばりと体を起こす雪の背を、咄嗟にラビが両手で支える。
冷静な目で物を言う神田とは対照的に、雪は不安げに自身の体を見下ろした。
片手で抱ける程、小さな体だ。
水中で逸れてしまったのか。
何処を捜しても、あのビロードのような艶やかな体は見当たらない。
──と、その時だった。
もこりと、不可解な突起物が雪の視界を遮ったのは。
「え。」
「お。」
「…あ?」