My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「ユウ! 雪は…ッ」
「息をしてねぇ。蘇生する」
駆け寄るラビに端的に返すと、雪の胸へと耳を押し当てる。
普段なら感じる胸部や腹部の上下の動きはなく、鼓動も弱い。
すぐさま気道を確保するように額を押さえ、顎を上げる。
躊躇することなく鼻を摘まんだ雪の唇に、己の唇を重ねようとした──瞬間。
「ッげほ…!」
大きく身を震わせた雪が、自ら咳き込んだ。
吐き出した少量の水が、神田の顔に直接かかる。
思わず動きを止める神田に、ラビも「うわ」と突っ込みかけたがそれよりも先に雪だ。
「雪! 大丈夫さっ!?」
背中を擦りながら顔を覗き込む。
何度か咳き込むが、水は大量に飲んでいなかったらしい。雪は苦しげに薄く目を開いた。
「ゆ──うぷッ!?」
「邪魔だ」
表情を明るくするも、ラビのその顔はすぐさま神田に押し退けられた。
「ごほ…っ」
「雪。俺がわかるか、雪」
「…ぁ…」
弱々しく、縋るように差し出される手。
それを握り返し何度も名を呼べば、雪の唇が咳とは別の意味で震えた。
「…ま──…」
「……雪?」
掠れた声で呼ぶ。
その目は神田を見上げていたが、虚空を仰ぐようだ。
ぎゅ、と握った手に力が入る。
神田の体温を感じてか。ぼんやりと空を仰ぐだけだった瞳に、意識が宿った。
「………ュ…ゥ…?」
辿々しくも呼ぶ声は、確かに神田の名だ。
ほーっと、細くも長い安堵の息をつくと、神田はようやく強張っていた表情の筋肉を緩めた。
「ったく…遅ぇよ。呼ぶのが」
「ぁ……ご、め…?」
「いい。お前が無事なら」
詰る言葉は一切詰ってなどいない。
状況を理解できていない雪を、安心させるように。寝かせた状態のまま、顔の水気を掌で優しく拭う。