My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「"伸"!」
咄嗟に穴の中へと鉄槌の柄を伸ばす。
濁った水の渦へと突き進む柄は、どんどん伸びて沈んでいく。
「──!」
まるで餌のかかった釣り竿のように。ぐっと重い何かが柄に体重をかける。
両足で踏ん張ると、鉄槌の頭と柄をそれぞれ握り、ラビは伸を一気に解除した。
「っの…そぉれェ!!」
引き上げるラビの力と、解除されて引き戻される柄の引力に、水中からそれは一気に姿を現した。
どぱんっと水飛沫を上げて飛び出してきたのは、六幻を握った手で鉄槌の柄を掴んだ神田。
と、そのもう片方の腕に抱えられた雪。
「ブルルルルッ!!」
「ヒィインッ!!」
「うわっ!?」
「げぇ!!」
更には、神田のブーツに引っ掛けるようにして尾を絡み付かせていたセストラルと、そのセストラルを追ってケルピーまでもが飛び出してきたのだ。
頭上を飛んだそれらが、ラビ達の上に巨大な影を作る。
「フレッド!」
「ああ!」
顔を青くするラビとは反対に、今度は双子が冷静な判断を下した。
息ぴったりに杖を振り上げたかと思えば、示し合わせていたかのように同じ呪文を繰り出す。
「「"ブラキアビンド"!!」」
見えない力が向かったのは、牙を剥くケルピーへ。
ぎちりと何かに縛り付けられるように、突如巨大な海藻馬が空中で動きを止める。
力なくひと鳴きすると、落下するままに再び穴の中へと、どぱんと沈んだ。
「やった、か?」
「多分」
「ブルルルッ」
「うわっ」
「冷たッ」
穴の中を覗き込むフレッドとジョージ。
その傍らに着地したセストラルが、ぶるりと体を震わせ水気を飛ばす。
「それよりジョージ!」
「そうだ、ユキ!」
はっとした双子が同時に振り返れば、地に足を着けたセストラルの傍ら。
全身ずぶ濡れの神田が、同じく濡れ鼠と化した雪を地面へ寝かせているのが見えた。
ぐったりと濡れた四肢を投げ出したままの雪は、動く気配がない。