My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
神田を守る為か、己の危機回避能力が働いたのか。
理由はわからなかったが、神田も咄嗟に六幻を退いた。
巨大な馬型の魔法動物が、牙を剥き合う。
大きな翼や鋭い尾でケルピーの体を鞭打つも、此処は水中。地の利があるのはケルピーだ。
幾度か怯む動作も見受けられるものの、やがてはケルピーがセストラルを翻弄し始めた。
縦横無尽に狭い洞窟内を駆け巡り、突進を繰り返す。
相手は人間界で言う象程も体格のある巨大な生き物だ。
その二頭が暴れれば、神田でも容易には間合いには入れない。
(くそ、息が…ッ)
ごぽりと大きな気泡が口の端から漏れ上がる。
このままでは雪諸共溺死してしまう。
自分は第二使途の再生能力を使って、蘇生することができるだろう。
しかし雪は。
「ッ…」
躊躇する暇などない。
唯一の出入口は、暴れ馬と化した二頭の死闘によって塞がれている。
視界の悪い暗闇の中、神田は残り僅かな酸素を肺に留めたまま──六幻の柄を握る手に、力を込めた。
──トッ
軽やかな足取りで、ラビは湖の小さな孤島に着地した。
その後ろで、ドタンッと尻持ちを着いたのは赤毛の双子。
「いった…!」
「もう少し穏やかに下ろしてくれないかなぁッ?」
「はぁ…ッ何贅沢言ってんさ、男二人も担いで此処まで運んでやっただけ感謝しろっての!」
神田に、フレッドとジョージを合流させろと命を受けた。
本音は神田の後を追って雪を助けに向かいたかったが、ラビのイノセンスは水中で自由自在には動けない。
仕方なくと湖の隅と隅に離れていた双子を、わざわざ孤島まで運んだのだ。
「で、でも大丈夫かな。セストラル、置いて来ちゃったけど…」
「ん? ああ、大丈夫さ。頭良んだろ? あの馬。湖の縁から離れようとしねぇ。大方、親を待ってんだろ」
ひょこりとラビの背中から顔を覗かせたジニーが、不安げに目に見えない仔セストラルを見つめる。
ラビは鉄槌の柄を元の長さへと戻すと、背負っていたジニーをその場に下ろした。