My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
焦る気持ちをどうにか抑え付けながら、冷静に辺りを観察していく。
見落とし一つしないよう。
「──?」
ゆらりと。
神田の一つに結んだ髪が、急な水の流れに揺れた。
再びケルピーが襲いに来たのかと身構えたが、違う。
ぐるぐると一定の間隔で水流を起こしている場所に、海藻を纏った馬はいない。
いたのは、人の形を模したものだった。
光る六幻を翳して見えたのは、項垂れるように水中に漂っている雪の姿。
「っ…!」
ごぽりと、神田の口から気泡が漏れる。
明らかに意識を失っているであろう雪は、藻掻く様子もない。
しかし彼女を中心に水の流れが急速に変わっていたのだ。
まるで近付けさせまいとするかのように。
(なんだこの水…ッ)
二本の六幻の柄を片手で掴むと、空いた手を雪へと伸ばす。
すると待ち望んでいたかのように水流は緩やかに変わり、神田の手を雪の体へと導いた。
腕を掴み引き寄せれば、やはり雪には意識がなかった。
ぐったりと力なく水中に漂っているその顔は、両目を閉じたまま口は薄く開いている。
水を飲んだのか。
一刻も早く外に連れ出さなければと、片腕を雪の胴体に回すと神田は力強く水中を蹴り上げた。
ゴポポ…!
ただでさえ視界の悪い暗い洞窟の中、更に大きな気泡の塊が視界を遮る。
揺らめく海藻の塊に、すぐにそれがなんのか悟った。
一度身を退いたケルピーが戻ってきていた。
獲物を横取りされることに怒りを感じているのか、迷うことなく神田へと海藻の毛並みをうねらせ突進してくる。
舌を打ちたくなる現状に、神田はすぐさま覚悟を決めた。
殺らねばこちらが殺られる。
魔法界だのなんだのと迷っている場合ではない。
片腕で雪を支えている為、二刀は扱えない。
発動させていた六幻を通常の状態に戻そうとした時、ゆらりと神田の長い髪先が再び揺れた。
雪の周りを纏っていた不可解な水流かと思えば、違う。
神田の頭上を飛び越えるようにして水中を蹴った黒い塊が背後から飛び出したのだ。
襲い来るケルピーに衝突するように牙を剥いたのは、セストラルだった。