My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
──ゴポッ…
周りを覆う白い気泡の波。
それを追い抜くように、セストラルは力強く羽で波を掻き進んだ。
視界の悪いモスグリーンの湖の中、ぐんぐんと深く潜っていく先には小さな孤島を支えている岩の壁。
そこにはぽっかりと洞窟のような穴が空いていた。
(そこか…っ)
直感的なものだったが、確信に近かった。
神田の思考を読み取ったのか、迷わずセストラルが穴の中へと身を投じていく。
入口は小さなものだったが、中は広かった。
恐らく水魔が塒としているのだろう、洞窟の中は真っ暗闇。
明かり代わりとなる通信ゴーレムも今はいない。
再生する体を持っていたとしても、長時間水中に潜っていられる訳ではない。
迷う暇はないと、神田は手にした六幻の鞘を抜いた。
(六幻、災厄招来──"二幻刀")
ヴン!と振動を高めた六幻が、残像を残すように二つ目の刀を生み出す。
二刀を左右逆手に握ったまま発動させれば、それは暗闇で光を放った。
コポリ…
辛うじて狭い視界を確保した神田の目に、小さな気泡が映る。
一つ、二つと上がる気泡を辿るように、発光する六幻の切っ先を下げていく。
ゆらゆらと揺れる海藻が、視界の邪魔をする。
「っ!」
突如、海藻が盛り上がり巨大化した。
ゴポポ…!
揺らめくそれは海藻ではなかった。
馬の形を成したそれが纏う毛並み──ケルピーである。
光を辿ってか、突進してくるケルピーをセストラルは器用に身を反らし躱した。
その背に掴まったまま、神田は通り過ぎ様のケルピーの背へと刃を突き立てる。
突進の衝撃で、六幻がケルピーの肌を斬り裂いた。
相手は魔法界の動物。
殺すことは憚れるが、雪を襲ったとあらば話は別だ。
痛みからか、荒れ狂うケルピーが神田とセストラルから距離を取る。
それを好機と、神田はセストラルの背を離れケルピーが潜んでいた壁伝いへと光を当てた。
姿は見ていないが、あれがラビの言っていた水魔だろう。
とすれば捕えた獲物は近くにいるはずだ。
(何処だ、雪…!)
息が苦しくなってくる。
いつケルピーがまた襲いに来るともわからない。
ここで見つけ出さなければ、次はないかもしれない。