My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
骨と皮だけの体は、驚く程力強かった。
間近で見れば、骨と皮だけではない。逞しい筋肉の筋が黒い毛並みの下で躍動している。
巨大な羽は、神田を背に乗せたまま忽ちに湖全体が見渡せる程高く飛躍した。
「なんさあれ…ユウッ? てかまた馬かよ!!」
水面ぎりぎりに垂直に進んでいたラビも、突如現れた天馬と同胞の姿に驚きを隠せない。
「目的地は一つだ。雪の処まで、俺を運べ」
セストラルの角を舵代わりに片手で握ったまま、背に片膝立つような状態で告げる。
神田のその意思が伝わっているかのように、黒い巨体は湖の上空を旋回し始めた。
目的地を探しているかのように、大きくゆっくりと回り始める。
徐々に高度を落としていくセストラルに、鉄槌の柄を持ち上げたラビが傍へと飛躍した。
「ユウ! なんさその馬…!」
「説明は後だ。お前はあの赤毛兄妹をあっちの赤毛と合流させろッ」
「何言ってんさ、オレも雪を捜すっての! つか赤毛じゃなくフレッドとジョージな! オレも赤毛です!」
「そんな下らねぇこと言ってる場合」
じゃねぇ、と付いた悪態は悪態にならず。
急にぐんっとセストラルの体が180度方向転換したのだ。
「ユウ!?」
長い尾を使い器用にバランスを保ち飛ぶ天馬に、鉄槌は咄嗟に追い付けない。
獲物を見つけた獣のように、セストラルは水面を一直線に飛んだ。
(あれは…)
ぐんぐんと速度を増していくセストラルの先には、湖の真ん中にぽつんと浮かんでいる小さな孤島が見えた。
フォード・アングリア三台分程の小さな孤島は、水草が生えているだけで木々らしいものなどない。
裸の孤島は遠目で見ても生き物がいないことなどわかる。
目指しているのは、孤島ではない。
深く吐き出した息を、一気に肺へと吸い込む。
神田のその姿が見えていたかのように、孤島の手前でセストラルはひらりと体を捻り半回転した。
長い馬面を向けたのは──真下。
ドボンッ!
白い水飛沫を上げて、一頭と一人は深い湖へと飛び込んだ。