My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「ユキ? ユキがどうしたって?」
「え? ユキ?」
切羽詰まったラビの声に、ただならない状況であることは伝わったのだろう。
両側から神田の手元をウィーズリー兄妹が覗き込む。
『それが…ケルピーとか言う魔法動物に水中に引き摺り込まれて…ッ』
「──!」
『ピィッ!?』
みしりと、ゴーレムを持つ手に力が入る。
涙目で暴れるゴーレムをそのままに、神田は今一度目の前の湖を凝視した。
「ケルピーって、あの水魔…っ?」
「知ってんのか」
「あ、ああ。野生なら、人も襲う気性の荒さも持つ」
「食われるってことかよ」
「……」
黙り込むフレッドの姿が、既に答えだった。
荒立たしく舌を打つと、神田は再びゴーレムへと声を飛ばす。
「ラビ! 雪が水中に引き摺り込まれてからの時間はッ」
『確か…1分2秒!』
記憶力のずば抜けて高いラビなら、その数字は正確なはずだ。
ならばまだ溺死した可能性は低い。
それでも、ケルピーの餌となってしまえば時間など意味を持たないだろう。
「お前はその馬共を見張ってろ」
「カンダは何する気で…っ」
「決まってる。そのケルピーとやらを見つけ出す」
「この広い湖からっ!? 無理だ、時間が足りないッ」
「ま、待って! カンダまでケルピーに襲われちゃう…!」
「…ッ」
六幻の鞘をベルトに挟み、着ていたコートを脱ぎ捨てる。
そのまま湖へと足を向ける神田に、途端にジニーが蒼褪めた。
咄嗟に腕にしがみ付き涙声で止めれば、神田も乱暴には払えない。
「おい。妹を引き離せ」
「湖に入って、その後は? 無計画に飛び込んでも、ジニーを泣かすだけだッ」
「じゃあ黙って見てろってのかよ!」
「そうは言ってない! 僕だって何か方法を…ッエラ昆布でもあれば…ッ」
「エラ…なんだそれは」
「水中を自由に泳ぐ為の魔法薬さ。父さんなら持ってたかもしれないけど…っ」
そんな都合の良い薬があったとしても、この場になければ意味はない。
今この場にあるもので使えるものはと見渡した神田の目が、不意に止まる。
「きゃあっ」
かと思えば、ジニーの背中の服を鷲掴むといとも簡単に持ち上げた。