My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
(結局は出戻りか)
セストラルという希少な動物は発見したが、今一番見つけたい魔法動物の発見には至らなかった。
結局一度戻って、計画を練り直した方が良さそうだ。
「おい──」
ひとまずジニーの安全を確保してから、仔セストラルの解放といこう。
そう、フレッドに呼びかけた。
「──ッ──!」
空気が変わったのは、その時だ。
声が聞こえた。
人の叫び声のような。
単語までは聞き取れなかったが、それを拾ったのは神田の耳だけではなかった。
「なんだ? 今、なにか…」
「どうしたの?」
頸を捻りながらフレッドが目を向けたのは、広い広い湖。
きょとんと声を上げるジニーは、何も聞こえていない。
しかし神田は。
「……」
じっと睨み付けるように広大な湖を見る。
眉間に皺を寄せ、目頭に力を入れ、セストラルの毛並みのように黒い眼が捉えたもの。
「雪…ッ!!」
それは暗い湖の上で映える、鮮やかな赤毛だった。
「何やってんだあの馬鹿兎…ッ」
「え? ウサギ?」
「オイ! ラビッ!!」
「きゃっ」
びりびりと響く神田の罵声が向けられたのは、ジニーの傍を飛んでいた通信ゴーレムだった。
引っ手繰るようにしてゴーレムを掴むと、湖を睨んだまま神田が呼ぶ。
「応答しろ! お前湖の上で何してる!!」
『──うぉわっ! この声、ユウさっ!?』
セストラルの動きさえも止める神田の威圧に促されたのか。
詳細は定かではないが、ゴーレムの向こう側から聞こえたのは確かにラビの声だった。
「何してるって聞いてんだよ。イノセンスまで発動させやがって」
距離はあったが、確かに確認できた。
湖の上を滑るように垂直に進んでいるラビは、魔法の箒に跨っている訳ではない。
自身のイノセンス、鉄槌に乗り湖の上を進んでいたのだ。
『今はそれどころじゃねぇんさッ雪が…!』
風圧によるものか、途切れ途切れの音声から伝わる単語に神田は尚も顔を顰めた。
やはり聞き間違いではなかった。
微かに聞こえたラビの叫びは、ファインダーの彼女を呼んだものだったのだ。