My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「ブルルゥッ!」
「デケェ図体だな…ッ」
鞘で後方の両脚を払えば、横倒しに倒れる巨体。
顎に鞘を押し当てると、そのまま地面へと押さえ付けた。
「今だ! 拘束しろ!」
「そこにいるのかい!?」
「ここは頭だ! 図体ならこっちにある!」
「なら…よしッ」
フレッドから見た景色は、神田が一人で鞘を地面に押し当てようとしている姿だけだ。
それでもどうにか状況を把握すると、杖を振り上げた。
「"ブラキアビンド"!」
放った呪文が、セストラル目掛けて飛ぶ。
ザッ
「!?」
其処に誰もが予想しなかったものが飛び出してきた。
怯えた様子で茂みに隠れていたはずの仔のセストラルが、小さな蹄を振り上げ威嚇してきたのだ。
親を取られることへの恐怖からか。
結果、フレッドの放った呪文は仔セストラルの体に降り注いだ。
「キュヒンッ!?」
儚い鳴き声を上げて、小さな体がピンと強張る。
そのまま地面に倒れ込む仔の姿に、目を剥いたのは神田だけではなかった。
「ブルルッ!」
「っ!?」
急に息を荒げたかと思えば、押さえ付けられていたはずのセストラルが烈火の如く暴れたのだ。
神田の押さえを弾き、薄い毛を逆立て仁王立つ。
「クソ…ッ」
「え? 何が起きたんだ? その反応だとよろしくない感じか!?」
「呪文がかかったのは子供の方だ。結果親が怒り狂った」
「ええっ!?」
蒼褪めるフレッドに、神田も苦々しく荒ぶるセストラルを見上げる。
子を守る親は何より強い。
そしてセストラルは賢い生き物だと聞く。
同じ手は通用しないだろう。
(どうすれば──)
この危機を脱することができるのか。
か細い声で鳴く仔セストラルに、はたと神田は目を止めた。
仔セストラルが転がっているのは、己の後方。
前方では憤怒した親が今にも牙を剥こうとしている。
本当に、彼らが賢い生き物であるならば。
「……」
「カ、カンダ?」
今度こそ、すらりと鞘から六幻を抜き取る。
フレッドの戸惑う声にも耳を貸さず、神田は抜刀した刃をあるべきものへと向けた。