My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「方法はなんだ!」
「拘束呪文がある! 本来別の動物に使うものだけど、同じ構造の生き物なら多少は効くはずだ!……多分」
「信憑性がねぇな…ッ」
荒く舌打ちをしながら神田は大きく飛躍すると、一時セストラルから距離を取った。
背丈の低い草木の茂みの中に、ジニーの体を放る。
「きゃあっ」
「"起きろ"」
神田の指示に、懐から小さな蝙蝠型ゴーレムが飛び出す。
「お前はこいつと此処に隠れてろ。絶対に出て来るんじゃねぇぞ」
「えっえっ? なに、これ…黒いスニッチ?」
スニッチとは、魔法界で有名なスポーツ競技クィディッチに使われる小さなボール状の魔法道具のことだが、神田がそれを知る由もない。
戸惑うジニーをそのままに、鞘に差したままの六幻を手に駆け出した。
「俺が押さえる! その隙に拘束呪文とやらをかけろ!」
「押さえるってセストラルを!?」
武器を手に向かってくる神田を、獲物ではなく敵と見做したのか。
一層荒い鳴き声を上げたセストラルは、威嚇するように羽を尚も広げ前足を振り上げた。
空中戦も可能とする生き物だが、気が荒立っている今は好戦的なのか地に足を付けて突進してくる。
それは好都合だと、神田も迷わず巨大な黒い獣に突っ込んだ。
ガキン、とぶつかり合う蹄と鞘。
全体重をかけて踏み付けてくる大きな蹄を、鞘に左腕を添えて神田は受け止めた。
「は、力勝負をしようってか」
そのまま力任せに捻じ伏せる気なのだろう。
退く素振りのないセストラルに、神田も笑う。
不服ではあるが、世間一般的に神田の容姿は凡そ力のある男には捉えられない。
最悪、性別まで間違われ求婚されたこともある程だ。
だからこそ返り討ちにしてきた男達は、神田の力に皆驚愕した。
押していたはずの蹄が、ぎぎ、と鞘の上を滑る。
真下に込めているはずの力は向かうべき所へは向かわず、反発する力に押されて相殺された。
ぶるりと鼻息を飛ばし首を左右に振るうセストラルに、眉を潜めて神田は悪態をついた。
「反応はどいつもこいつも同じだな。人を見た目で判断するんじゃねぇ、よッ!」
競り合う力は、神田が勝った。
六幻の鞘で弾き飛ばした蹄に、バランスを崩したセストラルの巨体がぐらりと傾く。
その好機を見逃さなかった。