My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
揺れた茂みから現れたのは、謎の生き物と同じ姿をしていた。
しかし怯える仔馬より大きく、元々神田の知っている馬よりも遥かに体格が勝る。
蝙蝠のような羽を背負っている為、細身ながら尚更に巨体に見えた。
(親子か…?)
子を守るかのように前進した生物が、鋭い前足の蹄を踏み鳴らす。
威嚇しているようにも見える姿に、神田は六幻の鍔に親指を押し当てた。
いつでも即座に抜刀できるように、静かに構える。
「なんかよくわからないけど、其処に何かいるんだなっ?」
「さっきからそう言ってるだろ。テメェの目は節穴か」
「ならその節穴にもわかるように、目の前にいるものの特徴を教えてくれないか」
「あ? さっき言ったろ」
「もっと詳しく!」
普段は軽口の多いフレッドが、真剣な面持ちで催促してくる。
その要求に神田は舌打ちをしたものの、渋々と応えた。
この世界は己こそが部外者、フレッドやジニーの方が熟知している。
「骨格は馬に近い。だが背中に羽がある。鳥のような羽毛はない、鋼のような羽だ。骨張った体は黒く短い体毛に覆われている。顔は馬より蜥蜴に近い。尖った嘴に角のようなものが──」
警戒してくるその生き物から目を逸らすことなく特徴を告げていた神田が、不意に気を取られた。
神田のコートの袖を強く握りしめている、ジニーの震えが伝わったからだ。
「そ、それって…」
何か思い当たる節があるのか。
緊張した声で呟くジニーに、続けたのは慎重なフレッドの声。
「恐らく…それは、セストラルだろうな」
「セストラル?」
「天馬の一種だ。"死"を見たことがある者にだけ、目視することができる。だから僕達には見えないんだよ」
(…成程な)
そんな生き物がこの世にいるのかと疑いたくもなるが、此処は己の知る世界ではない。
道理は通ると、神田も納得した。
「危険性はねぇのか」
「危険生物認定は受けてるけど、知能が高い分、飼い慣らすこともできる生き物なんだ。天馬だから人を乗せたり馬車を引いたりすることができる。でも此処に人気はないし…多分、カンダの前にいるセストラルは飼育されたものじゃなさそうだけど。鞍とか付いてないだろ?」
「人意的な物は何もない」
「なら、きっと野生だ」