My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
茂みの中からゆっくりと頭を擡げるようにして現れたのは、二本の小さな角を持つ奇妙な顔だった。
鷲のような先を鋭く曲げた嘴に、骨張った蜥蜴のような顔。
鼻があるであろう位置にはぽっかりと窪みがあるだけで、骸骨のような面影も見せる。
辺りの匂いを嗅ぎながら、恐る恐ると茂みの中から姿を現す。
仔馬程の大きさのそれもまた四足歩行の生き物であったが、背中には蝙蝠のような羽が二枚付いている。
あばらの浮いた骨と皮だけの胴体に、骨格がそのまま取り付いたような細い四本足。
極め付けは蛇のように長い尻尾だ。
馬のような体系をしていて、まるで馬ではない。
爬虫類の頭と蝙蝠の羽と蛇の尻尾を重ね合わせたような、不気味な骨と皮の生き物だった。
「カンダ? なんで刀を取り出そうとしているんだい…?」
「あいつはなんだ。明らかに見た目ヤバそうな生き物だろ」
「あいつ?」
六幻の入った刀袋の紐を解き鞘を手に持つ神田に、フレッドがひくりと口角を震わせる。
目の前の不気味な生き物から目を逸らすことなく神田が告げれば、ジニーが再び首を傾げた。
「あれはなんだ。チビナスと同じ類の生き物か」
「あれって何。なんのこと?」
「僕にもさっぱりなんだけど。何か見つけたのかい?」
首を傾げて疑問符を浮かべているのはジニーだけではなかった。
並んで赤毛を傾かせるフレッドに、舌打ちと共にようやく神田の目が向く。
「目の前にいるだろ変な生物が。見えてねぇのかよッ」
「…ジニー?」
「なんにも」
「オイ」
目を合わせた少女と青年が、同時に首を横に振る。
それでも頑なに否定する二人に、ぴきりと神田の短い堪忍袋に亀裂が入った。
「ならあれはなんだ! 馬みたいな鳥みたいな訳わからねぇ姿しやがって!」
「馬?」
「鳥?」
びしりと神田が指差した先。
其処を二人の目が追うも、やはりピンときていない顔。
しかし神田の目には、はっきりと映っていた。
神田の罵声に驚いたのか、今にも壊れそうな華奢な体を跳ねさせて、謎の生き物が後退する。
ガサリと、茂みが激しく揺れた。