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My important place【D.Gray-man】

第49章 つむぎ星に願いを



 湖の傍ら故か、足の長い水草が生い茂る道。
 少女の細い足は簡単に泥濘に取られ、ぐらりと傾いた。
 その腕を掴み転倒を阻止したのは、隣を歩く高い背丈。


「きゃあっ」

「…足元に気を付けろ」

「う、うん。ありがとう」


 淡々と感情の見えない声に告げられて、それでも見上げたジニーの頬は赤く染まる。
 妹の見たことのない乙女の顔を垣間見て、後方を歩いていたフレッドは溜息をついた。


「だからカンダはやめとけって…」


 フレッド、神田、ジニーの三人は、ジョージ達と別れた湖の反対側を進んでいた。
 ビルは水場でニフラーを見かけたと言っていたが、進めど進めど姿もなければそれらしい痕跡も見当たらない。


「おい。本当に此処にチビナス仲間はいるのかよ」

「僕に聞かれてもね。とにかく捜してみないことにはどうにも」


 腕にぴたりと寄り添うジニーに向けてか、一向に進まない探索に向けてか。
 眉を顰めて振り返る神田に、致し方なしとフレッドは肩を竦めた。


「ニフラーは小さくって足も速いし。見失わないようによく捜さないと。ね、カンダ」

「そもそも気配すらねぇぞ、此処には」

「わかるの?」


 興味深く見上げてくるジニーに向けることなく、神田の切れ目が辺りを探るように見渡す。


「森の中だってのに、さっきからまともな生き物の気配がない。普通じゃねぇだろ」

「そ、そお? あたしにはよくわからないけど…」

「フム。確かに、カンダの言う通りかもな」


 しんと静まり返る音一つない森林は、意識すれば不気味にさえ思える。
 自然と腕に抱き付く力を込めるジニーをさせるがまま、神田は見渡していた視線を不意に止めた。

 音はない。鳴き声もしない。
 しかしぴんと張り詰めた空気が伝えてくる。
 青々と続く茂みの先に、何かが在ることを。


「…動くなよ」

「え?」


 前を見据えたまま、神田が小声でジニーに告げる。

 音はない。鳴き声もしない。
 しかし青々とした世界だけが覆っていた視界の中で、突如と差し込んだ色があった。

 タールをぶちまけたような、ドス黒い漆黒だ。

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