My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
大きさは、通常の馬よりも遥かに大きい。
その姿に気圧されたものの、襲い来るような気配はない。
じっと底の見えない両目で雪を伺うように見つめている。
睫毛の長い優しげな瞳だ。
(この湖の主、とか?)
今まで出会った魔法動物は、牙を剥いてきたものが多かった。
真似妖怪のボガートや、腕に抱いているニフラーもそうだ。
それらに比べて噛み付く素振りの見せない目の前の水中生物に、危険性はないのか。
様子を伺っていると、不意にそれは大きな頭を下げてきた。
「ブル…ッ」
雪より低い位置に頭を下げて、見上げるように見つめてくる。
上半身のみを水面に出している為、常にゆらゆらと波のように揺れている姿は不思議と愛嬌があった。
「大丈夫、かな…」
恐る恐る、一歩踏み出してみる。
腕の中のニフラーは、警戒はしているものの逃げ出そうとはしていない。
片腕でニフラーを抱いたまま、ゆっくりと手を差し出す。
魔法界では初心者である雪だが、身体能力で言えばウィーズリー家にも負けない。
大きな口に噛み付かれる前に回避できるよう細心の注意を払いながら、手を伸ばした。
「怖く、ないよ」
「……」
果たして言葉は通じているのか。
怖がらせないようにと笑顔を作れば、長い睫毛の瞳がぱちりと瞬く。
すん、と匂いを嗅ぐように鼻先をほんの少し上げる。
その動作はニフラーと似ていて、雪の口角も自然と緩んだ。
残り数10cm。
互いのその距離を埋めたのは、魔法動物の方からだった。
「わ…っ」
ざぱりと波が起こる。
前足を上げ陸地へと乗り上げた馬の鼻先が、伸ばした雪の手に触れた。
瑞々しい濡れた皮膚を、押し付けるのではなく触れ合うように。
巨体に似合わない繊細な動きに驚きながらも、雪はほっと肩の力を抜いた。
どうやらこの魔法動物は、脅威の存在ではないようだ。
「初めまして。名前は、わからないんだけど…水の精霊みたいなものかな」
陸地に乗り上げた前足に蹄はなく、先は魚の鰭のような形をしていた。
まるで馬と魚を掛け合わせたような姿だ。