My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
なんとも言葉にし難い、二人の間に漂う空気。
思わず雪が突っ込めば、にんまりと笑顔を浮かべたまま二人は等しく首を横に振った。
なんとなく触らない方が良いかと、それ以上声はかけずに再び腕の中のニフラーへと目を向ける。
つぶらな瞳は興味なく目の前の赤毛達を見ていたかと思えば、プイと顔を逸らした。
「だよね」
やはり触らぬ神に祟りなし。
「私、あっち見てくるね」
にこにこと笑い合う二人を後回しに、雪は周辺を探索することにした。
「そういえば、ニフラーって泳げるのかな」
「キュ?」
「お水。大丈夫?」
さくさくと歩き続けてみるものの、腕の中のニフラーは大人しい。
昨夜のような冒険心はないのか、雪に寄り添ったままだ。
何か変化は見られないかと、雪は水辺の淵ぎりぎりまで歩み寄り、大きな湖の中を覗いてみることにした。
水深は深いのか、水の底を見ることはできない。
ニフラーの体を支えたまま水面へと近付ければ、すんすんと尖った鼻先を近付ける。
しかし体が濡れることを恐れたのか、しっかりと雪の手に前足を絡めたまま離そうとしない。
「うーん。その体なら水も弾きそうだけど、手足は水かきがある訳じゃないしね…ん?」
「キュウッ」
すると急にじたばたとニフラーの体が暴れ出した。
何事かと様子を伺う前に、雪の眼下で異変が起こる。
波紋一つ広げていなかった静かな湖に、ぽこぽこと気泡が浮いてきたのだ。
やがてそれは数を増やし、水面を山のように盛り上げてざぱりと波打たせた。
「わ…っ」
反射的にニフラーを抱き込んで後退る。
激しい波ではなかったが、ざああ、と流れる水が雪の頭より高い位置から落ちてくる。
モスグリーンの湖の中から急に姿を現したのは、同じく柳色のような海藻を纏った生き物だった。
よくよく見れば、それは海藻ではなかった。
形は似ているが、波打つ一つ一つがその生き物の毛並みなのだとわかる。
「ブルルッ」
「ぅ…馬…?」
鼻息を鳴らし微かな水を飛ばしてくる。
長い鼻面に、ぴんと立つ葉のような両耳。
長い首に海藻のような鬣を纏った生き物は、雪の知る動物で言う馬に酷似した姿をしていた。