My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「…ん…」
ゆっくりと身を起こす神田に、その腕の中から解放された雪が瞼を震わせる。
「ユ…?」
「まだいい、寝てろ。チビナスが起きただけだ」
雪が起きる前に、その耳元に寄せた唇から溢れる音は低く優しい。
その声が示したニフラーには一切関心を向けず、ベッドから下りた神田が向かった先は固まるジニーの下。
どぎまぎと待機する少女の前で屈むと、高い位置にあった見下ろす顔が視線の高さを合わせてくる。
「あの…朝ご飯…」
どうにか本来の目的を遂げようとしたジニーの唇に、ふにりと神田の人差し指が軽く触れる。
「わかった。雪を起こして連れて行く」
雪の耳に届かないようにと、静かな声で告げる音色は優しい。
昨夜は一度も聞かなかったその声にジニーが目を丸くする中、神田の口元は音と共に柔らかな弧を描いた。
「ありがとな」
ロンより神田を選んだ理由は、彼が正直者だと思ったからだ。
雪やハーマイオニーに美形好きかと心配されたが、そんな気は毛頭なかった。
何より兄のビルは公認の美男子である。
そんな彼を幼い頃から傍で見てきたジニーは、外見でどうこう左右される心は持ち合わせていなかった。
はずだ。
「先に下りててくれるか」
「…ウン…」
どうにか絞り出せた返事は、それだけで。
促す神田に従って、頷きそのまま俯いたジニーの顔は扉の外へと引っ込んだ。
カチャンと静かな音を立てて閉じる扉。
その扉一枚隔てた向こうには、見たこともない笑みを浮かべた男がいる。
「…っ」
それだけで、先程の胸の高鳴りなど可愛いくらいに鼓動が跳ねる。
赤く染まった頬に両手を当てて、ジニーはその場に立ち尽くした。
ビルとは系統が全く違う。
すっきりと整った顔立ちには黙っていても見惚れるような美しさがあるのに、そこに感情が芽吹くとあんなにも輝くのかと。
「…アジア人ってすごい…」
無意識に零れた独り言に、更にぷしゅりと頭から湯気が立つ。
朝食の匂いに廊下に誘われたロンだけが、不思議そうに妹の背中に首を傾げていた。