My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
どれ程の時間が過ぎただろうか。
互いに沈黙を作り生み出す静寂に、先程の重さはない。
寧ろその空気が心地良くて、雪は深く息をついた。
「…リヴァプールのホテルで、話したよね」
ぽつり。
静寂の中で、ふと思い出したように音を紡ぐ。
しかし雪の目は神田ではなく、納屋の内装に向いていた。
「暗い部屋から見る星空が、苦手なこと」
「…ノア野郎が、それを俺に教えてきたんだ。だから雪と面識があると思った」
「…そっか……知られたんだ…」
ふと口元に浮かぶ笑みは、自嘲にも似たもの。
神田の体に身を預けたまま、雪は夢微睡むように話し出した。
「私が教団に来る前に住んでいたのは、こんな所だったんだ…隙間風はいつもひゅうひゅう音を立てて吹いていて、鼠が同居人で、小さなランプ一つと机代わりの木箱があるだけ。ベッドは…子供用の敷布団と薄い毛布と枕。冬場はいつも、毛布を体に雁字搦めに巻いて寝てた」
ぽつぽつと落ちていく音色が語る、幼き日の記憶。
淡々と思い出すように告げる雪の姿は、以前過去を語った時と同じだ。
しかしその目は暗く、静かに納屋の中を見つめている。
「小母さん達家族は離れの家に住んでいたから、温かい食事も暖炉もあった。今のウィーズリー家と同じ」
「…一人で此処に住んでたのか」
「此処にいなさいって言われたから。私が暮らせる場所は、あの家にはなかった。だから此処が私の居場所だった」
「……」
「嫌じゃなかったよ。小母さん達に監視され続けるよりは、此処にいた方がずっと息がし易かったし。冬場は凄く寒いけれど、夏場は…天窓があるから、凄く涼しかった」
つい、と上がる雪の視線。
屋根へと続く天井の四角い扉は、幼き記憶と重なる。
「私の部屋の天窓は、扉がないから常に開いていて。あそこから、夜は沢山星空が見えたんだよ」
暗い部屋から見上げる星空は、その四角い空間だけ切り取ったかのような名画だった。
幼きながらも目を奪われて、いつまでも見上げ続けたものだった。