My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「前にも言ったでしょ。私は病弱な訳じゃないし、これでも鍛えてるつもりだって。それにノアなんだから。壊れ物に触れるように扱わなくたって、大丈夫」
「……」
「そういう訳にはいかないのも、わかってるよ」
広い胸に頬を当てて、まるでそこから神田の心を読み取るように。
ぽつぽつと雪の声だけが静寂に落ちる。
「でもね…怖くないよ。どんなに黒い思いを持っていたって、ユウのことが見えていたら。全然、怖くない」
広い背中に腕を回す。
胸元に顔を埋めれば、ウィーズリー家の洗剤の匂いがほんのりと香る。
今は雪が纏う匂いと同じもの。
そんな些細なことが、なんだかじんと染みた。
(それに…本当は優しいこと、知ってるから)
触れる許可をわざわざ尋ねるなど、凡そ神田らしくない行為。
しかしそれは安易に彼の表に出ないものなだけであって、雪の目には時折映る優しさだ。
他の誰もが知らなくても、自分だけは。
(私の知ってる、ユウの顔)
他の誰も知らなくてもいい。
自分だけが知っていればいい。
そんな独占欲塗れた思いも、そうであるならば。
「…私もだよ」
「? なんだ」
「ううん」
小さな呟きは、神田の耳には詳細に届かなかった。
心底願うのは、今目の前にいる彼の幸せだ。
同時にその彼の一番でも在りたいと願う。
誰かに依存して掴む幸せは、なんとも愚かなものだと諭された。
しかし自分の幸福の為に欲するならば、必要不可欠なものだ。
(このひとが、欲しい)
優しく髪を撫でる大きな掌。
指先は冷たいのに、寄り添って触れる体温はあたたかい。
石鹸の残り香を纏う長い黒髪も、耳に心地良い低い声も。
(どうか、このひとを私のものでいさせて)
切れ長の深い瞳の奥に、自分の姿を置いてくれるならば。
それだけで、いくらだって強くなれるから。
(──神さま)