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My important place【D.Gray-man】

第49章 つむぎ星に願いを



 隣の人肌はほんのり感じるが、それならばまだ膝上の二フラーの方が温かい。


「…これ、暖取りって言うの?」

「文句言うな」

「文句は言ってないよ。けど…前は、もっとちゃんと温めてくれた」

「?」


 少しだけ拗ねた顔をして、雪がいつかの話をする。
 前とは、いつの話なのか。
 以前雪が怪盗Gの容疑者として警察に捕まった時は、神田の団服を貸して温めた。
 しかし今此処に、その上着はないのだ。


「いつの話だよ」

「…私の部屋で、報告書を書き上げた時。律儀に私の体を擦って、温めてくれたでしょ」

「……」


 言われてようやく、神田の脳裏にその時のことが蘇った。
 傷の手当てをする為にと、半裸に剥いた雪が寒そうにしていたから。
 その体を抱いたまま、肌を擦り温めた。

 しかしそれを求めているとあらば、一瞬躊躇する。
 理由はただ一つ。
 その肌に、触れていいものなのかと。


「…いいのか」

「何が?」

「お前に、触れて」


 いくら話を交え互いの心に少しの整理ができたとしても、安易に触れていいものなのか。
 無理矢理に雪の体を蹂躙した所為で、恐怖を与えてしまったというのに。
 静かに問いかける神田に、雪は何も応えなかった。

 す、と上げた両手を神田へと突き出す。


「ん」


 それは報告書を仕上げた雪の自室で、抱っことせがむ子供のような彼女の姿と重なった。

 それ以上は愚問だった。
 応えるように腕を広げれば、すっぽりと収まる体が擦り寄ってくる。
 背中と膝裏に手を添えれば、抗わない体は簡単に神田の膝の上に収まった。

 柔らかな肌に、くすぐる髪の毛と、心地よい体温に、落ち着く匂い。
 充分知っていたはずの雪の体に、ほっと安堵に似た息が溢れる。
 こうして触れられたのは、久しぶりだった。


「プキュ…」


 どうにか落ちないように雪の膝にしがみ付いていたニフラーだけが、不満そうな鳴き声を漏らす。

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