My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
納屋には幸いにも、鍵は付いていなかった。
中に踏み込み小さな電球を付ければ、見慣れた空色の車が真っ先に目に飛び込んでくる。
昼間、雪達を此処まで運んだフォード・アングリアだ。
「結構広いなぁ。此処なら思う存分走り回れるんじゃない?」
「キュッ」
外に出ないよう念を押せば、賢い魔法動物は小さな頭を縦に振る。
その場に下ろせばすんすんと鼻を鳴らして、興味深くあちこち探索を始めた。
その姿を見失わないよう、二階に続く階段に腰を下ろす。
古びた道具や工具など、ガラクタと呼んでも可笑しくないものばかり置いてあるが、そこまで放置された様子もない。
「(なんか、親近感というか…見覚えがあるような…)……ぁ」
ぐるりと辺りを見渡して、雪のその目が真上に向いて止まった。
ほとんど屋根裏と言ってもいい納屋の二階は、ウィーズリー兄弟の遊び場にでもなっていたのか、古びた玩具や使われていない衣類が見受けられる。
そして、小さな梯子が一つ。
屋根に出られる形になっているのだろう、天窓扉へと古びた梯子は掛けられていた。
(そっか…此処……似てるんだ)
無意識に、両手で自分の腕を掴んで抱きしめる。
暗く埃りの充満した、狭い部屋。
部屋と呼ぶにも疑う其処は、物置同然の場所だった。
廃れた机と椅子と薄い毛布だけを与えられて、過ごしていた日々。
その小さな空間が、幼い雪の生きる場所だった。
天井には空の見える天窓が一つ。
其処から毎夜、輝く星空を見上げては眠りにつく前に両親に思いを馳せた。
毎日毎日、彼らの無事を願って。
毎日毎日、彼らの帰還を望んだ。
かみさま、と愚かな程にその存在に縋って。
「?…おい」
じっと天井を見上げたまま動かなくなった雪に、納屋の出入口に背を凭れて立っていた神田が声をかける。
はっとした様子で瞬いた目が、神田を映した。
「ぁ…うん。何?」
「何固まってんだ」
「ううん、別に。ちょっと此処、肌寒いかな?って」
抱きしめた腕を擦りながら、取り繕うように笑う。
雪のその表情に眉を潜めながらも、神田はそれ以上口を挟まなかった。
確かに風除けにはなるが、隙間風の多い納屋の中は些か肌寒い。