My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
本音は、許されるならば雪を誰の目にも触れられない所へ隠してしまいたい。
ノアも教団も手の届かない、自分しか知らない所へ。
閉じ込めて、蓋をして、誰の目からも隠せたら。
そうすれば彼女を取り巻く悪意あるものから、守ることができる。
しかしそれでは、雪自身の心も殺してしまう。
一歩踏み外せば、真っ黒に染まる欲。
「俺は…お前が思っている以上に、ドス黒い思いを持ってる。だから、リヴァプールではあんなことをしてしまった。こういう感情は…よく知らねぇから、何が普通で何が異質なのかわからない…でもお前がくれるってんなら、なんだって貰うからな。それなりの覚悟は、しておけよ」
「…そんなの、」
未だ顔に赤みを帯びつつ、それでも雪は強い神田の視線から目を逸らさなかった。
ようやく重なったのだ。
ようやく向き合えた。
生半可な思いで告げた訳ではない。
それに。
「愚問だよ。私は──くしゅっ」
「…オイ」
「ご、ごめっ」
大事な場面で漏れたのは、小さな小さなくしゃみ。
至近距離で吹き掛けられたくしゃみに、思わず神田の目も据わる。
埃ばかりの納屋であれば仕方ないとも思ったが、神田の鋭い目は見逃さなかった。
「寒いのか」
「少し、だけ。でも平気。この子が湯たんぽ代わりになってくれてるし」
雪の膝の上で丸くなっていたニフラーは、いつの間にかその粒らな目を開いていた。
鳴き声一つあげずじっと神田を見上げている様は、まるで力量を量っているかのようだ。
この男は、話を聞くに値する者なのかと。
(…いけ好かねぇ目だな)
見た目は愛らしい小動物だが、その黒い目の奥は底が見えない。
雪の深い瞳の色とは、まるで違う色に見えた。
「…はぁ」
小動物相手に何をムキになっているのかと、己に溜息一つ。
階段に足をかけると、雪の隣にドサリと腰を下ろした。
「何?」
「どうせまだ此処にいるつもりだろ。暖取れるもんはねぇんだから、こうするしかねぇだろ」
生憎、その体に掛けてやれるような上着は持ってきていない。
ぎりぎり近くで隣に座る神田の膝が、微かに雪の膝に当たる程度の距離。
まじまじとその距離を、雪は見つめた。