My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「さ、部屋に戻ろう」
「ピ!」
「え? 嫌なの?」
踵を返そうとすれば、いやいやと首を横に振るニフラーが小さな手足をばたつかせる。
逃げる気はないようだが、戻る気もないらしい。
ずっと雪の鞄のポケットにいたのだから、窮屈な思いもあったのか。
そう考え出すとその場に立ち往生してしまう。
「どうしよう…もう夜だしなぁ」
空には半分に欠けた月が浮かぶ。
周りにネオン街などないお陰で、きらきらと輝く星空も見えた。
「あ。あそこなら少しは風除けなるかな」
「キュウ」
「あそこでゆっくりしていく?」
「キュ!」
「じゃあ少しだけね」
「オイ」
雪が見つけたのは、ウィーズリー家の敷地内にある納屋。
果たして会話は通じているのか。
さくさくさとニフラーと会話らしきものを進めて足を向ける雪に、黙っていた神田が堪らず口を開いた。
「何言ってんだ。戻るぞ」
「ユウは一足先に休んでていいよ。私はこの子を少し遊ばせてから戻るから」
「は? 良い訳ねぇだろ」
「でも犬猫だって散歩させないと、ストレス溜まるでしょ。あの納屋なら、部屋の窓から確認できるし。ちゃんと戻るから」
「だからって…おいッ」
このまま部屋に戻っても、また神田と重い沈黙を作り上げてしまう。
それなら夜風にでも当たって気持ちを落ち着かせた方がいい。
内心結論付けると、雪は大人しく腕に収まるニフラーを抱いたままひらりと神田に手を振った。
真似るように小さな手を振るニフラーの愛嬌ある姿が、神田の目に憎たらしく映る。
常に反抗的な態度を取るにも関わらず、こんな時だけ愛らしいなどと。
(思うかボケ)
否、憎たらしい毛むくじゃらだ。
「遊んでいいのは納屋のウッ」
二フラーに言い聞かせながら進んでいた雪の足が、突如止まる。
襟首を後ろから引っ張られ、喉を潰しながら強制的に止められた。
「なんの為に俺がいると思ってんだ」
雪の襟首を掴んでいたのは、舌打ち混じりに悪態をつく神田。
このまま引き摺って戻っても良かったが、雪との状況が状況だ。
「…数十分だけだ」
「え。ユウも来るの? 大丈夫だか」
「数十分だ」
「…ハイ」