My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「待って…!」
月明かりの下、するすると滑るように走る二フラーの後を雪は懸命に追った。
やがて短い牧草地だった場所から、背の高い稲穂の群へと変わる。
「た、大変…っ」
その中に飛び込んでしまえば、小さな体は忽ち見えなくなる。
頭を抱えて戸惑う雪の肩を、徐に大きな手が掴んだ。
「っおい! 勝手にいなくなるな!」
「!…どうしよう、ニフラーが…」
「あ?」
振り返った雪の表情と言葉に、神田の目が目の前の稲穂の群に向く。
その言葉の意味を理解すると共に、溜息をついた。
「もういいだろ、これであいつも野生に戻ったってことだ」
「そう、なのかな…でもこんな形で大丈夫かな…」
「いい加減諦めろ。下手に構う方が、野生に戻し難くなる」
「それは…わかってるけど…」
「オラ。帰んぞ」
「っあ」
神田の手が雪の手首を掴み引く。
その強い力に、ふらりと傾く体。
ざざ、と稲穂の群が揺れた。
「ピギ!」
「っ?」
「わッ」
突如稲穂の中から飛び出した二フラーが、神田の手に噛り付く。
「戻ってきた!?」
「テメ…逃げるか構うかどっちかにしろ!」
「す、ストップー!」
カチンと頭を揺らした神田が、怒り任せにニフラーを掴み掛かる。
その一歩手前で、雪は小さな体を抱き寄せた。
「お、落ち着いて! どうどう…っ」
抱き込んだまま動揺を静めれば、神田に対して威嚇ばかりの二フラーが大人しく変わる。
暴れる素振りの見せない小動物に、雪は安堵を、神田は苛立ちを覚えた。
「よかった…勝手に消えたら吃驚するからね」
「キュ…」
「ちゃんと明日、アーサーさん達に聞いて住み易い場所に連れて行ってあげるから」
「キュウ?」
「君の住処になる所だよ」
「言葉通じてんのかよ…」
「…そんな態度だから、噛み付かれるんだよ…」
「あ"?」
噛み付かれた手を払いながら神田がぼやけば、ニフラーのつぶらな瞳がじとりと向く。
どうやら雪の言う通り、小さな毛むくじゃらは賢い動物のようだ。