My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
(って駄目だ。出鼻挫いてちゃ)
ハーマイオニーとジニーと美味しい朝食のパンケーキを笑顔で食べる為に。
内心言い聞かせて、雪はふるりと首を横に振る。
まだここは序盤。
恐る恐る隣に目を向ければ、大きなベッド型ソファーに腰掛ける神田の横顔が見える。
持ってきていた六幻を手入れしている様は、何度も見てきた姿だ。
目線はこちらに向いていない。
なのに感じる威圧は、神田が目の前のイノセンスだけに集中していないからだ。
それくらいは見てわかる程に、雪も彼と共に過ごしてきた。
「…ゅ…ユウ、」
恐る恐るでも、初めの一歩を。
投げ掛けた声は自分でも思った以上に小さなものだったが、神田の耳は拾ったようだ。
ぴたりと手元の動きを止めて、顔がゆっくりと向く。
「…なんだ」
「えっと…モリーさんのご飯、美味しかった、ね」
「……」
「ユウも全部食べきってたから…珍しいなって」
「…食えなくはなかった」
「そ、っか。私も、美味しかった。"家庭の味"って、ああいうものなのかなって…ちょっぴり、憧れた」
拙くも話題を振る雪に、素っ気なくも応える神田。
そこに宿るぎこちない空気に、雪の膝に乗っていたニフラーが交互に二人の顔を見上げる。
「ご飯もだけど、家族皆の空気感も、かな…家族ってものをよくは知らないけど…家庭的というか、温かみがあるというか…」
「……」
「なんというか…ウン」
しかしぎこちない空気は会話を長持ちさせない。
やがて語尾を萎める雪に、自然と沈黙が生まれる。
再び重い空気に雪が力なく頭を下げる中、じっと雪を捉えていた目線を不意に神田は下げた。
「俺は…そんな世間話をしに、此処に来たんじゃねぇよ」
「……そうだよね…ごめん」
神田は雪の監視の為に此処にいるのだ。
遠回しに伝えられた意味を理解して、尚雪の頭が沈む。
(余計に悪循環…私の馬鹿)
だからと言って、何をどう話せばいいのか。
率直に問題を切り出せる程の勇気は、ない。
しゅんと小さく見える雪の姿に、神田の眉間に皺が寄る。
気難しい顔をしたまま、再びその口を開いた。