My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「つーか大体、過去に誰を好きになろうが、今見てるのはお前なんだ。そんなこと心配すんな」
「うん…そう、なんだけど」
ノアには、雪は単なる代替品だと言われた。
だから不安が残るのだ。
(でもユウは私を見てるって言ってくれた。いつまでもノアの言葉に振り回され続けてたら、あの時と同じになってしまう)
ノアの言葉を鵜呑みにした神田の態度に、嫌という程ショックを受けたというのに。
それと同じものを与えてはいけないと、自分自身に言い聞かす。
「お前が過去に誰を好きになろうが、今のお前は俺を見てる。それでいいだろ」
「…でも前にライアンの話をしたら、嫌な顔したよ?」
「……それはそれだ」
むすりと無愛想に変わる神田は、昔に世話になった小母の下で暮らした少年の名を聞いた時と全く同じもので。
つい雪の肩も力が抜けた。
「やっぱり、気分良くはないよね」
「……」
無言は肯定と同じこと。
渋い顔をする神田とは反対に、雪の顔は安堵にも似た色を宿す。
「…というか、そいつとはそんな関係だったのかよ」
「ライアンと? まさか、ないない。寧ろいつも小馬鹿にされてて、良い思い出はないかなぁ」
思い出しても、良いと思える記憶はほとんどない。
今思えば、母親を見て育ったのだから雪への態度がきつくなるのも当然だったのだろう。
しかし幼い雪には冷たくされる理由がわからず、辛い思いもした。
「私にとって大切な過去の人は、前にも話したけど私の両親だよ。それ以外には誰、も…」
いない、と思っていた。
教団で暗い監禁室から連れ出してくれたクロスも大切な人物だったが、それはまた両親とは異なる存在。
心から欲し愛した存在は、この世で両親ただ二人だけ。
(だよ…ね?)
しかし物真似妖怪ボガートが見せた知らないはずの光景は、何故だか雪の胸を締め付けた。
ローマのコロッセオで神田の命の灯火が一度消えるのを目にした時と同じ。
胸の奥が張り裂ける程の痛み。
あれは誰かを、失った痛みだったのだろうか。
亡き両親ではない、他の誰かを。
「なんだよ、黙り込んで」
「…ううん」
しかし何も思い出せない。