My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
常に一線を引いている神田が他者との関わりを広げていくことは、素直に嬉しかった。
自分の知らない時間をリナリーやマリと過ごし築き上げていた関係も、守るべきものだと思った。
しかし雪の知らない女性を緩やかな眼差しで見つめ、優しさを帯びる声で呼び、熱を持って触れるとするならば。
(嫌だ)
はっきりと拒絶したくなる程の嫉妬心。
「ユウが、人間関係を広げることは嬉しいよ…でも…安心できる場所は…私で、ありたい」
安心して、最後には帰って来られるように。
「不安ばっかり、させてるのに、そんな偉そうなことって思うけど……でも、」
己の顔が熱いのがよくわかる。
ノアの戯言に感化されて何を馬鹿なことをとも思ったが、止められなかった。
神田は、ノアに吹き込まれた雪の情報は真実だったと言う。
ならば雪の聞かされた神田の情報もまた、真実である可能性がある。
「他の女性(ひと)に…目移り、しないで…」
神田に、自分の知らぬ本命の女性がいる。
そんなことを考えただけでも心が裂ける。
「…言っただろ。お前を俺にくれるなら、俺もお前にやるって」
掠れた声で懇願する雪のそんな姿を、神田は見たことがなかった。
否、一度だけ垣間見たのは、リヴァプール大聖堂で気を失う直前。
捨てないでと、神田に弱音を吐いた一瞬。
それだけ雪の心もまた、ノアに荒らされたのだろう。
「最初にお前に向いた目は、今もお前しか見てねぇよ」
「…本当に?」
不安げに揺らぐ瞳が、訴えるように神田の顔を映し出す。
「わ…私以外に…今まで誰か好きになったことは、ないの?」
神田の過去を雪は知りたがったが、女性関係には一切触れてこなかった。
興味すらないだろうと思っていた問いに、神田は静かに驚いた。
「……ねぇよ」
やがて沈黙を辿り、告げた言葉は。
「俺が好きになったのは、月城雪だけだ」