My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
現に雪は教団には告げられずとも、神田には真実を告げようとしていた。
だからこそノアであることが明るみになり監禁されても、神田に一番に伝えようとしたのだ。
「…ならノアの野郎共には、お前の記憶は筒抜けだってことか」
「多分」
「俺の知らないお前の記憶も」
「…うん」
事情を呑み込みはしたのだろう。
それでも表情は晴れない神田に、雪は迷い一度閉じた唇を、恐る恐る開いた。
「でも…過去の私は筒抜けでも、今の私は知らないよ。私の…今の顔を知ってるのは、ユウだけだから」
仄かに頬に熱を添えて。
それでも目線は逸らすことなく、神田を見つめる。
眉尻を下げた自信のない表情は、それでも深い瞳の奥に誘うように神田を捉えて離さない。
時折見せる甘える時の雪の面影に似ていて、ほんのりと違う。
「今の顔って、自分がどんな顔してるかわかってんのか?」
「…変な顔」
「なんだそれ」
「他の人には、見せられないような顔」
「……」
「だから…ユウしか知らないの」
先程涙声を漏らした名残か、ほんの少し濡れているようにも見える雪の瞳。
埃塗れの硝子窓から薄暗い月明かりが差して、暗い瞳がきらきらと小さな光を抱く。
頬を染めたまま消え入りそうな声で告げる姿に、何故だか胸の奥が熱くなる。
その姿から、一時足りとも目が離せなくなった。
「…そうだな」
それは極自然に、口元を綻ばせた。
「そういう顔は、俺の前だけにしておけ」
光を抱いた雪の目が丸くなる。
ほんの少しだけ口角を緩めて、ほんの少しだけ目元を細めて、ほんの少しだけ声のトーンが優しさを帯びる。
笑顔と言うには程遠い。
しかしそれは確かに、神田の何かを愛しむ顔。
そんな姿を垣間見るだけで、雪の心にも火が灯るのだ。
「…ユウ、も」
唯一触れている神田の手を握る指先に、力が入る。
「その顔は、私のもので、いさせて」
淡い花々が入り乱れる眩い世界。
そこで知らぬ女性に笑いかけていた笑顔は、はっきりと見たことがない。
なのに優しく笑う口元を垣間見るだけで、心は張り裂けそうに痛んだ。
(そんなのは、嫌)
記憶は曖昧で朧気だ。
それでも痛む心が否定する。