My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
だからなのか、熱を求めるように目の前の体を求めた。
知らぬ男の跡など全て、己の手で塗り潰してしまいたかった。
全部消えてなくなればいい。
自分の刻む跡だけ残ればいい。
だからその肌に喰らい付いて、噛み跡を無理矢理にでも残した。
上書きをすれば安心するとでも思ったのだろうか。
(その結果が、これだ)
残ったのは、歪な関係と不安感だけ。
「…知って、たの…」
「俺が気付いただけだ。リナ達は気付いてない」
ようやく見えた雪の表情は、驚きと困惑に満ちていた。
「じゃあ…なんで、聞かなかったの…?」
不器用な態度に現すくらいなら、何故問い掛けなかったのか。
疑問を述べる雪に、今度は神田の目がぎこちなく宙を泳いだ。
「お前は隠そうとしただろ。俺にあそこまでされても…だから、聞けなかった」
「…逆に、態度であそこまで出したのに、言葉にできない方が凄い…」
「っ」
唖然としながらも呟く雪に、神田の言葉が詰まる。
雪の言う通りだろう。
無理矢理抱くくらいなら、素直に問い掛ければよかったものを。
それができなかったのは、邪魔をしたのは。
あの何もかもを見透かしたような目で笑っていた、ノアの男だ。
「…俺の…知らない雪を、ノアは知っていた。お前から聞いたんだと、さも当然のように告げて」
「え…?」
「だから、お前と向き合った時に、色んな感情がごっちゃになった」
雪の手は離すまいと掴んだまま。
空いた手で、くしゃりと前髪を雑に掻き上げる。
眉間に皺を寄せた神田の複雑な表情は、その言葉通りの心を表していた。
「嘘かもしれないと思った話を、お前が認めたから。俺の知らない所で、ノアに会ったのかと。…知らないうちに、手の届かない所に行きそうで」
「……」
「消える、気がした」
丸く見開いていた雪の目が、更に驚きに満ちた。
複雑な心境を吐露するように、迷うように口にする神田の感情が、手に取るようにわかったからだ。
(一緒、だ)
見覚えはないのに、見覚えのある。
知らないはずなのに、知っている。
ぼんやりと脳裏に浮かぶ、眩く澄み切った世界。
そこでいつも、手を伸ばしては届かずに消える存在を。