My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「でも…怖いと思ってしまった自分も…嫌、だった」
自然と眉間に深い皺を刻んでいた。
そんな神田の表情を止めたのは、続く雪のか細い声。
「ユウは、ユウなのに…私の中では、何も、変わってないのに」
どんなに欲を見せた神田に荒々しく抱かれても、そこに恐怖を感じたことは一度だってなかった。
寧ろ自分にしか見せないその欲は、特別なものだとさえ思っていた。
それは雪の心の根本に、変わらぬ神田への想いがあったからだ。
それは今も少しも変わらず雪の中に存在している。
しかしリヴァプールの小さな一室で見せた感情の見えない神田の行為は、初めて雪に小さな恐怖を植え付けた。
「お前の中では変わっていなくても、俺がそうさせた。…俺の責任だ」
雪が体に触れられることを嫌がっていたのは、火を見るより明らかだった。
まだその体に打ち込まれた幻覚剤が、雪の体を侵食していたことも。
それでも沸き立つ感情を止められなかったのは──見つけてしまったから。
「気付いてた。お前の体に…他の誰かが、触れたことは」
暗い部屋の中で、まだ体に幻覚剤の余波があると告げた雪。
確かめる為に触れた髪をかけるようにして耳朶に触れれば、そこに小さな赤い花弁が散っていた。
ぽつんと一つ。
意図的に残されていたのは、その体を味わった証だったのか。
ほんの小さな、しかし神田の心を大きく揺さぶるその跡に、目が離せなくなった。
雪は人身売買の競売に賭けられ、ノアに連れ去られた。
異性を煽るようなベビードールの姿で、ノアと密室に二人きり。
そこでは何も起きなかったと、リナリー伝に雪の報告を聞いた。
しかし意図的に刻まれた耳朶の跡は、何もなかった結果ではあるはずのないもの。
雪の性格を考えれば、動揺を広めない為にと真実を隠すこともあり得る。
熱く気怠げな吐息を零す雪の姿が、その跡を付けた誰かの前で曝したものと重なって。
そんな眼を、そんな唇を、そんな肌を、見知らぬ男に見せたのか。
そんな眼で、そんな唇で、そんな肌で、見知らぬ男に抱かれたのか。
腹の奥底にずんと重く沈む黒い感情。
それは神田の体を芯から底冷えさせた。