My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「私もユウも完璧な人間じゃないから、足りないところもあるのに。取り巻くものの大きさに見えなくなってた」
躊躇するように、ゆっくりと上がる雪の手。
それは目の前に立つ神田の服の裾を、ほんの少しだけ握った。
「その大きさに足が竦むこと、あるよ。怖いって思う。…でも、ユウを失うことも…怖い、から」
だから、と一息ついて。
恐る恐る、雪は神田の黒い眼を見つめた。
「まだ、手が届くなら…握って、いたい。耳を傾けてくれるなら、話が、したい。私のことだけじゃなくて、ユウのことも。上手く受け止められるかは、わからないけど……何もしないまま、失くすのは、嫌だから」
「……」
じっと見下ろしてくる、簡単には感情を読ませない深い闇のような眼。
圧さえも感じるそれに、雪の目線が自信なく落ちる。
しかしその手が握った裾を離す前に、神田の手が掴み取った。
「ったく…なんで全部お前が言うんだよ」
「っ?」
「チッ」
そんな嫌味な言い方がしたい訳ではない。
それでもティエドールのような抱擁ある言葉など思い付かず、神田は苛立ち混じりに舌を打った。
自分へ苛立ちを向けられていると思っているのか、過敏に反応する雪に、どうにか落ち着かせようと深く溜息をつく。
「…俺は、お前に完璧さなんて求めてねぇ。人は万能じゃなくて、いいんだよ」
彼の言葉を借りるのは癪に障るが、神田も一応師と認めている男だ。
ティエドールに相談したあの日のことを思い出しながら、いつもよりゆっくりと言葉を紡いだ。
「足りなくていいし、不完全でいい。無理矢理にそこを埋めようとしなくてもいい」
「でも、それじゃ」
「俺がその分、歩み寄ればいいだけの話だろ」
「…ぇ」
思いもかけない神田の言葉に、雪の瞳が驚きに満ちる。
「小せぇ癖に、お前の歩幅は俺よりでかいんだよ。だから…偶には、休んでろ。俺が、追いかけるから」
一人で立ち続ける強さを持っている雪だが、他人に歩み寄れる柔軟さもある。
その一線で躊躇し足を止める神田の隣を、彼女はするりと抜けていく。
そして何より、一度抱えた想いを簡単には曲げはしない。
どんなに絶望の淵に立っても、神田を見つけて踏み出そうと彼女はするのだ。