My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
暗い納屋の中で浮き彫りになるような、雪の顔の白さ。
あの夜、リヴァプールの小さなホテルで向き合った雪の氷のように冷たい体と肌を思い出して、神田は握っていた二の腕から手を放した。
触れてしまえば、また傷付けてしまいそうで。
「ちょっと、思い出してたというか…」
「…何をだよ」
「……さぁ?」
「寝惚けてんのか」
「そうじゃないけど…」
雪自身も把握していないような曖昧な表情で、再び階段に腰を下ろす。
そんな儚く曖昧にも見える雪の姿に、触れることはできずともその場から離れることもできなかった。
目を逸らしたら、消えてしまいそうで。
「…なんでお前はそうなんだよ」
知らず知らずに漏れていた。
神田の問いに、雪の蒼白な顔が向く。
「そんな不安定な姿持ってる癖に、なんで俺を…視ようとできるんだよ」
「……それ、言うの?」
蒼白い顔は依然蒼白いまま。
しかしその目を丸くして、雪は不思議そうに呟いた。
「前は、話がしたいって言いに来たユウを私は蹴ったのに。今度は話をしようとすることが不思議なの?」
「…あの時は…話せる状態じゃなかっただろ…」
誰が、とは聞かずともわかった。
ぴくりと雪の唇が一瞬閉じる。
「……そう、だけど…でも、私がユウから目を逸したのは、事実だよ」
珍しくも根気よく向き合おうとした神田に、あの時は応えられなかった。
薬漬けにされた体の異常もあったが、疑いの目を向けられたことに酷く動揺して。
「私にも、私なりの志があるけど…いつもそれに従える訳じゃない。…弱いところ、あるから。逃げ出したくなる時もあるし、踏み外すことも、あるよ。それは…ユウも、一緒だよ、ね」
「……」
「ユウは私より強いから…勝手にそう思い込んでたけど。不安になったり迷ったりすることも、あるよね…」
前に一度、そんな神田の姿を見つけて守りたいとさえ思ったのに。
自分の足場を崩される感覚に、周りを見る余裕なんてなくなっていた。