My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「……ユウ」
呼び掛ければ、応えずとも目は向く。
背中ばかり向けて目線を合わせようとしなかった、昔の彼ではない。
言葉は、きっと交わすことができる。
「…なんで…止めなかったの?」
その一歩を、恐る恐る雪は踏み出した。
「今回、私が教団外に出るって聞いた時」
ノアとしての自分を疑ったのなら、護衛と監視で来たのなら、その案を聞いた時に止めはしなかったのだろうか。
純粋な疑問を問いにすれば、神田は素っ気なくもその口を開いた。
「…息抜きの為の外出だと馬鹿兎から聞いた。それをわざわざ止める義務なんてねぇだろ」
「……(そう、なのかな…)」
少しでも疑いを持っていれば、簡単に首を縦には振れないはずだ。
トクサであれば、ノアとの接触を恐れて容易に雪とラビとだけの単独行動は許さないだろう。
現にあのラビだって、当初は反対した。
そこに神田が歯止めを掛けなかったのは、己の腕に自身があったからか。
それとも。
「…一時的にでも…教団を忘れられる所に、行きたくて。だから、無理を言ってラビにお願いしたの」
伝えることはないと思っていたものも、口にすると辿々しくも形にすることができた。
温かい浴槽の中で、身一つで向き合ったハーマイオニー達の存在があったからなのか。
「自分の立場も、義務も、存在意義も…そういうもの、ぜんぶ忘れられる所に、行きたくて」
「……」
「此処の皆は、それを忘れさせてくれた。家族を知らない私にも、ああこれがそうなんだって、温かくなる心を教えてくれた」
誰かに対して心底優しくなれるような。
そんな愛情に満ちた絆が、ウィーズリー家にはあった。
「でも…ユウを、見ると、どうしても今は…教団を、思い出すの」
二フラーを撫でていた手が止まる。
その手で胸元のシャツを掴んで、雪は自身の足元を見つめた。
「それが…少し、苦しい」
自分の立場を忘れさせてくれたのは、彼だったはずなのに。
今はその存在が、否応なしに自分の立場を思い出させる。
『セカンドくんの傍にいたって、雪は不幸なだけなのに』
「……」
俯く雪の姿に、神田の脳裏を掠めたのはティキの言葉だった。