My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「準備はいいな」
フレッドがガチャリと鍵を差し込み回すと、エンジンがかかる。
ブルルンと呻るような声を上げるフォード・アングリア。
(よし。隣のことは一旦忘れよう)
折角の夢の旅路。
深呼吸を一つすると、雪はわくわくと期待で窓に張り付いた。
その膝の上では、ハグリッドが去ると同時に鞄のポケットから出てきたニフラーも、キョロキョロと辺りを見渡している。
しかし駐車場を出た車は、塗装された道路へと進む。
それはなんてことのない、ただの走行だった。
「…なんだ…」
「何が?」
「いや…空、飛ぶのかと思って」
「ははん。あの児童文学書のように?」
残念そうに肩を落とす雪を、にやけた顔でジョージが笑う。
「物語と史実は違うのさ」
「確か魔法界では、車に浮遊魔法をかけるのは違法じゃなかったさ?」
「そういうこと」
「そうなんだ…」
魔法界にも魔法界の法律がある。
その法律が駄目だと言うのならば、従う他ない。
乗り込む前の笑顔は何処へやら。
流れていく風景をぼんやりと見つめる雪に、ジョージは苦笑するとフレッドへとミラー越しに目配せを送った。
「でも時と場合にもよるな、兄弟」
「ああ。このまま走ってたんじゃ、家に着くのは夜中になっちまう」
「何言って…ちょっと待って」
「でも車が空を飛んでいたら違法だ」
「ところがどっこい、僕らには心強い味方がある」
「僕、嫌な予感しかしないんだけど…っ」
「その名も、」
「「透明ブースター!」」
止めようとするハーマイオニーの声など華麗にスルーし、ジョージと息ぴったりにフレッドが運転席の赤いボタンを押す。
それと同時に、車は塗装された道を逸れ隣の林へと突っ込んだ。
「えっわぁっ?」
「皆、掴まってろよ!」
「前方、手頃な崖があります!」
「は? おい! 崖だろ! 止まれ!」
「止まれと言われて止まれないのがこのアングリア105E!」
ガタガタと凸凹道を走る車輪に、座席が跳ね上がる。
思わず守るように二フラーを抱き上げながら、神田の声で雪の目にも映ったもの。
それは断崖絶壁、ジョージの言葉通りの崖だった。