My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「……」
ラビの突然の宣言に、神田は意外にも噛み付いてはこなかった。
しかし無言で作る威圧の方が、時として暴力を振るわれるよりも恐ろしいこともある。
(顔こっわッ)
今が正にその時だろう。
抜刀はしていないものの、六幻の鞘に手を掛けたまま無言で睨み付けてくる。
後一言何か申せば斬り掛かられるような目だ。
それでもラビはぐっと耐えた。
ここで折れてしまえば、背に庇った雪を守り切れない。
以前任務帰りの神田に雪を引き摺り連れ去られた時は、一度は背に庇ったものの破壊神の恐ろしさに恐怖して見送った。
あの時と似てはいるが、状況はまるで違う。
(ここで折れたら男が廃るさオレ!)
ごくりと息を呑んで、再度神田を指差す。
「まずその格好。教団を連想させるもんは全部ナシな。てことで監視するなら着替えてくること!」
「…あ?」
ようやく漏らした神田の第一声は、言葉ではなく悪態だった。
とてつもなく低い声で唸られて、それでも尚ラビは耐えた。
「折角のストレス発散日和なのに、会社の制服なんて見たら楽しめねぇだろ。団服は没収! 何処でもいいから、適当に服見繕って来いよ」
「ラビ…そこまでしなくても」
「そこまでするさ。つーかそれくらいできないようじゃ、ユウも残念な男だってことだな」
「あ"?」
更に悪態が増す。
歩く破壊者ではあるが、雪関係だと時として彼は操り易い。
そのことを知っていたラビは、早く行けとばかりに神田の背を適当な洋服店に向けて押した。
「…チッ」
やがて忌々しそうに舌打ちを向けた神田は、それでも大人しく足を店へと向けた。
どうやらラビの意見を通したらしい。
「ちゃんとマシな格好してこいよー」
「本当に入っていっちゃった…」
「よし、今のうちさ」
「え?」
「これは雪の為の旅行だろ。ユウを待ってやる義理なんてねぇし」
「え、え。でも、ユウは私の監視役だって」
「監視するならあっちからついて来るだろ。なんで監視対象側が気遣って待ってやらなきゃならないんさ?」
「それは…」
「てことでバタービール飲みに行くさ!」
「わ…ッ」
ラビに手を引かれるまま、雪の体は再びダイアゴン横丁の人混みへと紛れ込んだ。