My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「ね、ねぇ…大丈夫かな…」
「何がさ? んっこのバタービール美味いな!」
「何がって、ユウのこと…後で凄い怒られるんじゃ」
「いいから雪も飲めって。美味いぜコレ」
「んぷっ」
心配そうに人混みを見渡す雪に構うことなく、ラビの手が露天で購入したバタービールを押し付けてくる。
泡立ったそれを口元に押し付けられれば、途端に雪の咥内に甘い匂いと味が広がった。
「甘っ…美味しい!」
「だろ? ま、ビールつってもこれはジュースの類だからなー。あ、ちゃんと酒になってるものもあるみたいだけど」
「えっどれどれ」
「これこれ。ビールの他にもウイスキーとかワインも」
「っの馬鹿兎!!」
スパァンッ!!
「ッてェ!?」
露天のメニュー表を覗いていたラビの頭が、勢い良く落ちる。
駆け付け様に平手打ちをしたのは、スキニーにシャツにコートとシンプルな出で立ちで、頭から爪先まで私服へと着替えた神田だった。
「何勝手に消えてんだテメェ…っ!」
急いで捜し回ったらしく、珍しくも多少息を乱している。
それでもラビは涙目で頭を押さえながら、口を尖らせた。
「いっちち…逆になんでユウを待たなきゃならねぇんさ? オレの優先順位は雪だって言ったろ」
「ッけほっ」
唐突な自分の名前に、思わずバタービールで咽る。
けほけほと詰まる雪に二人の目線が向けば、本人はたじろぎ一歩退いた。
「ぁ…えっと…ユ、ユウも飲むっ?」
やがて苦し紛れに出た言葉は、誘うもの。
差し出された飲みかけのバタービールに、神田は思わず顔を顰めた。
甘い匂いが鼻を突くそれは、恐らく名前とは違い苦手な糖分が存分に使われたものだろう。
その無言の返しに、雪は更に一歩退いた。
「ご…ごめん。甘いの、苦手だったね…」
「……」
明らかに落ち度だと凹む雪の態度に対し、無言の神田は何を考えているかもわからない。
(うーわーめっさ空気が重ぇ)
やはり彼らの間で何かがあったのだろう、その場の気まずい空気にラビも思わず顔を顰めてしまう。