My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「あれは…もしかしたら、ボガートだったかもしれませんね…」
雪達の疑問に一つの答えを出したのは、息を切らし気味に呼吸を落ち着かせていた店主だった。
「ボガート?」
「通称、真似妖怪。こんな人の多い場所にいるのは珍しいですが、迷い込んで来たのかもしれません」
「真似妖怪ってことは、何かに擬似するってことさ?」
「ええ。人が一番怖いと思うものに自在に姿を変えることができるんです。生き物、無機物、情景、なんにだって」
店主の説明を聞きながら、雪はなんとなしに納得した。
だから雪と神田の前では、姿が違ったのだろう。
(あれ…でも私の一番怖いものって、なんだろう)
しかしそこでふと湧いた疑問が一つ。
千年伯爵は確かに恐怖を抱く相手だが、実際に会ったことは一度もない。
そんな半端な怖さが一番だと言えるのだろうか。
(それにあの赤い雨は…)
それよりも最初に感じた謎の景色の方が、現実味があった。
あんな景色を何処かで見た憶えはないが、何かが頭の中を掠めたのは確かだ。
それは雪がいつかに恐怖を感じた出来事なのだろうか。
そして神田の前に現れた、あの翼を生やした彫刻のような謎の物体とは。
「にしても、捕まえてくれてありがとうございます。これで最後の一匹だ」
考え込んでいた思考は、店主の明るい声に遮られた。
雪の腕の中にいたニフラーの首根っこを掴むと、店主は溜息混じりに肩を落とす。
どうやら此処に辿り着くまでに、他の魔法動物も確保してきたらしい。
「しかしこのニフラーはうちのニフラーじゃありませんね」
「えっそうなんさ?」
「一目見れば判断はつきます。恐らく野生のニフラーでしょう。動きが尋常じゃない」
確かにゲージの中にいたニフラー達に比べると、俊敏性に長けていた。
やれやれと首を振って、それでもと店主はニフラーを持ってきていた小さな籠に押し込んだ。
「野生でもこんな場所で暴れ回られては困る」
「キュイ! キュウ!」
「こらっ大人しくしろ!」
「キュクク!」
「あ!」
野生というのは確かだろう。
するりと店主の腕の中を掻い潜ると、ニフラーはあっという間に逃げ出した。
「わっ?」
雪の腕の中へと。