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My important place【D.Gray-man】

第49章 つむぎ星に願いを



(なんで)


 彼が此処にいるのか。
 思考が追いつかないまま立ち尽くす雪は、恐る恐るその名を呼んだ。


「ュ、ゥ?」


 確かにその場で抜刀した六幻を構えているのは、神田だった。
 しかし雪へと視線を向けることもなく、背を向けたまま路地裏の奥を凝視している。


「いるんだろ。出て来い」


 呼び掛けたのは、並ぶ樽の裏側へと。

 一瞬にして消えたかのように見えた千年伯爵の姿を、神田は捉えていた。
 正確な姿は見えなかったが、その気配は確かに振り下ろした刃をすり抜け樽の裏へと逃げ込んだのだ。


「テメェは誰だ」


 神田の問いに応えるかのように、カタカタと樽が小刻みに揺れる。
 連動するように微弱な光が樽の隙間から零れ始めた。

 赤い雨に千年伯爵。
 奇怪な現象に戸惑う雪の目に、更に奇怪なものが映る。


「何…あれ…?」


 ゆっくりと垂れた頭を持ち上げるかのように、樽の裏側から現れたのは、なんとも形容し難いものだった。

 人の胴体を彫刻で掘ったかのような、白い物体。
 しかしそれは胴体のみで、腕や首から先は切り取られたかのような切断面。
 背中と思わしきところから生えているのは、まるで翼のようだった。
 なんとも奇妙な、天使にも似た彫刻。
 それがゆっくりと樽の奥から姿を見せたのだ。

 雪にとって、それは知らないもの。
 しかし神田は違っていた。


「…っ」


 息を呑み謎の彫刻を凝視する。
 その目には一瞬畏れさえ浮かぶ。





"聞こえるか、ユウ"





 鼓膜の奥で木霊する。
 機械的に呼び続けてくる声。





"もう一度だ"





 体は爆ぜ、血を吹き出し、命を止めても、続けろと言われた。
 目の前の不気味な物体と融合し、人間の希望になれと言われた。





"もう一度、イノセンスと同調しなさい"





 それが使命なのだと。
 何度も体が死ぬ瞬間を味わいながら。





「ユウッ!」

「!」


 強い声に呼ばれて、はっと神田の瞳が現実を取り戻した時、すぐ目の前に"それ"はあった。
 頭のない首を擡げて翼を広げ、神田自身を覆い尽くそうとしている。

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