My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に.
「少し、考え込み過ぎてました」
それは今日何度も見た、笑いたくもないのに笑ってる顔じゃなかった。
よく見る紳士的な笑みとも違う、少し砕けた僅かな笑み。
苦笑混じりのそれは、満面の笑顔じゃなかったけれど。
虚ろに宙を見つめていたアレンの横顔を思い出す。
それを思えば、今の私には充分過ぎる程の笑顔だった。
「…考え込むのはそれだけ、真剣に向き合ってる証拠でしょ」
何を考え込んでいたのか。
クロス元帥のことなのか、はたまた別のことなのか。
私にはわからないけど。
「逃げずに向き合おうとしてる証拠だから、悪いことじゃないよ」
簡単には聞けないけど。
知った口で話せないけど。
そんなアレンを否定する要素は、どこにもない。
「でもアレンは頑張り屋だから。…あんまり無理し過ぎないようにね」
そんな曖昧なことしか言えないけど。
本音を口にじっとその目を見返せば、アレンの目はまた、ぱちりと瞬いた。
「…ありがとう」
零れた言葉は、微かな一言だけ。
浮かんだ表情は笑顔じゃなかった。
じっと私を見返して、どこか切なそうに眉を下げる。
…なんだか、少し泣きそうな顔。
「…アレン…?」
今まで見たことのなかったその顔に、思わず手が伸び──
「だからガン無視すんじゃねぇって言ってんだろ刻むぞテメェら」
げっ
息継ぎなしでツッコんでくる神田に、思わず動きが止まる。
この神田はまずい。
こういう息継ぎなしでツッコんでくる時は、ブチ切れ寸前だったりするから。
「無視なんてしてないから! ほ…ほら、スマイル&ピースっ」
「安物のキャッチコピーみたいなこと言ってんじゃねぇよ、馬鹿にしてんのか」
「滅相もない! 笑顔は素敵だなって! ね、アレン!」
「そうですね。笑顔の神田はちょっと気持ち悪いですけど」
「アレン!?」
思わずアレンに同意を求めれば、その顔はもういつも通りで、そしてあっさりと私の同意を切り捨てた。
今そんなこと言わないの!
というかそんなことないから!
ちゃんと素敵でしたよ!