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My important place【D.Gray-man】

第18章 ロザリオを胸に



 思い出せばあの子のことを考え込んでしまいそうになって、そうなる前にと話を切り出す。


「でもそう簡単に、同じ人間だからって慣れは」


 しないよね。
 そう、アレンに同意を求めて話しかけようとして。見えたのは、無表情に墓地を見る横顔だった。

 さくさくと変わりない速度で隣を歩く。
 だけどのその横顔は何かを見ているようで、何も見ていない。
 無の表情だ。


「…アレン?」


 なんだか引っ掛かる横顔に、思わず足を止めて呼びかければ、はっとアレンに感情が戻る。


「あ、はいっ。すみません、ボーッとしてました」


 慌ててこちらを向いた目は、きちんと私を映していた。
 先程まで見えていた、どこか虚ろな表情はもうない。
 もうない、けれど。


「大丈夫?」

「はい。大丈夫です」


 にこりと綺麗な笑みを浮かべて…あ、これ。任務前の司令室で見た笑顔と同じだ。
 神田が前に私に指摘した、アレンの顔。
 笑いたくもないのに笑っている顔。


「一通り左眼で探ってみましたが、異常はないみたいです。一度、皆の所に戻りましょうか」

「…うん」


 私もこんな顔をしてたのかな。
 神田みたいに苛立ちはしないけれど、なんだか気にかかってしまう、そんな顔。
 …その理由は、やっぱりクロス元帥のことなんだろうか。

 クロス・マリアンの突然の失踪。
 それは本人によるものなのか、それとも誰かに抹殺されたのか。原因は究明されていない。

 クロス元帥は幼い私に心の拠り所をくれた人だから、恩義がある。
 だからその事件の報告を聞いた時はショックを受けた。
 どこか胸の奥に隙間が空くような、そんな感覚。
 クロス元帥と幼い頃からずっと一緒で師弟関係にあったアレンには、もっと大きな衝撃だったはず。
 だからこそアレンの虚ろな表情や作った笑顔は気になるけど、簡単には聞けない。

 アレンは優しいから、私がどんな言葉を吐いたって笑顔を向けてくれるとは思うけど。
 アレンは優しいから、例え傷付いたって心を殺して笑うだろう。
 だからこそ、そんな笑顔はさせたくない。

 どう聞くのが最善かなんて、わからないから。
 相変わらず私の口はいざという時程、簡単に言葉を形にできない。


「…はぁ」


 駄目だな、私。

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