My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に.
「だから余所見すんなつってんだろ」
「…いはい」
思わず足元に視線を落としていると、伸びた神田の手が私の頬を抓った。
見上げれば、その目はいつの間にかこちらに向いていた。
真っ直ぐ見下ろしてくる顔は、私を見て呆れるように息をつく。
「別に痛くしてねぇだろ。任務に集中しろ。お前すぐ怪我するだろうが」
確かに、抓る手は力加減をしていて痛くはない。
むにっと頬を引っ張って、呆れるように息をついて。
でもその顔は私を咎めるようなものじゃなかった。
「怪我なんざしやがったら、また消毒液ぶっかけるからな」
「っ! きをふへまふっ」
ジト目で言ってくるその顔は本気でやり兼ねないから、咄嗟に背筋を伸ばして敬礼する。
あれ、すんごい沁みて痛かったから。
できれば二度目は遠慮したい。
…あれ?
前なら怪我したら置いてくって、よく言われてたのに…珍しいな。
神田がそう言わないなんて──
「あっ! また雪さんに乱暴して…! なんでそう雑に扱うんですか!」
その思考を止めたのは、飛んできたアレンの声。
同時に神田の手首を掴んだアレンの手が、私の頬から引き離す。
「いい加減にしないと、コムイさんに被害届出しますよ」
「これのどこが乱暴なんだよ」
「ああ、そうですね。神田にとっては拳が挨拶みたいなもんですもんね。すみません、僕には理解し兼ねる頭の構図みたいなので」
「…あ?」
うわ、まずい。
これってまたあのパターン展開の予感…っ
「ど、どうどう…っ。落ち着いて二人共っ。ほら、今は任務中だし。喧嘩なんてしてたら危ないよっ」
慌てて二人の視界の間に、腕を伸ばしてひらひらと手を振る。
あの殺気を含んだ視線をぶつけ合う前に、それを阻止しないと!
こっちに意識さえ向けさせれば回避できるかも…!
「ほらアレン、笑顔笑顔っ。私は笑ったアレンが好きだなーっ」
神田は高身長だから、まだそれより身近な身長のアレンの方が簡単に手を伸ばせる。
その頬を両手で挟んで、半ば無理矢理にでも私に向けさせた。
決して神田にそれをするのが怖いとか。
アレンの方がまだ殴られないよねとか。
そんな心配はしてないから!